嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
 怒気の籠ったジョシュアの語調にコルディアは息を呑む。
 目の前の憎たらしい女を、本当ならジョシュアは許したくない。
 王族に傷を負わせたことにかこつけて、死罪にしてやってもいいくらいなのだ。

「だがな。マイアはお前の命までは奪わないでくれと言った」
「え……?」

 たとえ虐待されてトラウマを植え付けられても。
 どれだけ屈辱を味わった過去があっても。

 マイアは語った。
 今は亡き母から、人に優しくできる淑女になりなさいと。
 そう言われたことを。

 だからマイアは彼女の意思に従って、ハベリア家の命を助けることを選んだ。
 妻の意思ならば尊重すると、ジョシュアは判断を下した。
 そうして心根が優しいマイアだからこそ、ジョシュアも彼女の願いに応えたくなるのだ。

「感謝するといい。マイアがいなければ、君たち一家は滅んでいた。命は保障しよう」
「な……何よ! お姉様の何がそんなに……私の方が美しくて、愛想もよくて、ずっと綺麗なのに!」

 頭を抱えて喚き散らすコルディア。
 人は合理的な反論ができなくなったとき、感情に身を任せる。
 今の彼女がまさにそれだった。

 客観的に見て、どう考えてもマイアの方が貞淑な人物だ。
 どの点を取ってもマイアの方が上だとジョシュアは思う。
 自分の妻だから、ひいき目に見ているのかもしれないが。

「……もはや何も言う気が起きんな。とにかく、俺の要求は一つ。
 今後、二度とマイアに関わるな。彼女は俺の妻で、最愛の人。彼女を苦しめるようなら……俺は容赦せん。せいぜい彼女の目に留まらぬ場所で生きていくことだな」

 吐き捨て、ジョシュアは踵を返す。
 彼の目線に合わせて、衛兵たちがコルディアを連れ出した。

 ジャックはジョシュアの判断に任せると言ってくれた。
 だからこそ、最大の被害者であるマイアに決断を下させるべきだ。
 彼女が公爵の妻として相応しく、また国に必要な人間だと認知された以上……もはや婚姻に異を唱える者もいないだろう。

「もうすぐ……式を挙げるか」

 ジョシュアは帰り際、静かに呟いた。
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