後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
第一章

お腹が空いたので宮女になります

「お腹が空いた……」

 夏晴亮(シァ・チンリァン)が腹を擦りながら王都を歩く。もう何日も食べ物を食べておらず、雨水と道に生えている雑草でどうにか生きながらえている。

 思わず地面に倒れ込むが、粗末な身なりを見て誰も夏晴亮を助けない。どうしたものか。このままでは飢え死にしてしまう。ふと彼女の鼻を擽るものがあった。

「良い匂いがする!」

 体を勢いよく起こし、そのまま走り出す。その速度はどんどん早くなり、馬車を追い抜かしていった。

 道行く人を避けながらたどり着いた市場の前で、夏晴亮は目を輝かせた。市場には沢山の出店が並んでおり、どこからも美味しそうな匂いが漂っている。夏晴亮は口から洩れそうになる水を拭った。

――全部食べてみたいけど、お金が無いなぁ。

 袖から取り出した布袋の中身を確認する。饅頭一つ買えるお金も残されていない。諦めて踵を返すと、人だかりが出来ていることに気が付いた。そこには立て看板があり、宮廷からの知らせが書かれている。

「宮女募集……健康であれば未経験でも構わない……」

――やろう!

 宮女が何をするのか分からない。けれども、家もご飯も無い今よりまともな生活になるならば、少しくらい理不尽なことがあったって構わない。夏晴亮は意気揚々と歩き出した。


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