後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

第二皇子

 もしも彼女が犯人だと仮定すると、動機が気になるところだ。

「彼女は側室、皇后より地位が低い。任深持(レン・シェンチー)様が彼女より地位の高い人の子どもだから? それなら皇后を狙った方が早い」

 そう、回りくどいことをせず、毒を入れられる環境にあるならばもっと直接狙えばいい話である。そうすると、違うところに動機があるはず。

「第一皇子を狙うということは、第一皇子がいなくなると喜ぶ人がいるってことだ」

 夏晴亮が顔を上げる。

「そうか……第二皇子」

 第一皇子がいなくなれば、第二皇子が次期皇帝となる。余紫里(ユー・ズーリー)は第二皇子の母だ。子どもを一番にしたくて邪魔者を排除する。辻褄は合う。
 それを第二皇子が望んでいるのか、側室か。それは分からないが、調べる価値はある。

「第二皇子ってどんな方かしら」

 引き出しに仕舞い込んでいた似顔絵一覧を引っ張り出す。第二皇子の顔をしっかり覚えておく。兄の任深持とは似ていない。彼はもっと強い瞳を持っている。弟は母親似らしい。

「どうしようかな」

 無理はするなと言われているから、なるべく慎重に行きたい。いきなり突撃するのは浅慮だ。もっと彼らのことを知っておかねば。

「第二皇子も後宮内にいらっしゃることもあるだろうから、しばらくは阿雨に後宮を調べてもらおう」

 幸い、毒見師として自分がいれば任深持まで毒が行くことは考えにくい。いつ出会えるか分からないため長期戦を覚悟していたが、二日後、夏晴亮(シァ・チンリァン)はあっさり第二皇子に遭遇した。

 掃除中、(ユー)に付近を散歩してもらっていると、雨が夏晴亮の元に走って戻ってきた。前日はなかったことなのでどうしたのか尋ねれば、雨が案内した先に一人の男が歩いていた。

 ここにいるのは皇帝か皇子、その側近のみだ。年齢を考えて第二皇子で間違いないだろう。きょろきょろと当たりを窺う姿は明らかに怪しい。まさか、母親だけではなく、この男も関与しているのだろうか。夏晴亮は何食わぬ顔でそちらに歩いていき、すれ違う際に拱手した。

「君は……」
「夏晴亮です」
「そ、そう」

 動揺した第二皇子がそそくさと去っていく。いったいここで何をしていたのだろう。誰かに用事があったのか、何かすることがあったのか。

「とりあえず、毒の臭いはしなかったなぁ」

 彼が後宮をうろつくということが分かったので、機会はまだある。夏晴亮は雨を一撫でし、掃除の続きを始めた。
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