後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
第二章

毒を入れたのは誰?

(ユー)を使ってですか?」
「使ってというか、一緒にというか。とりあえず私たちもお手伝い出来るんじゃないかって。阿雨なら誰にも見られず潜入出来ますし」

 さっそく、毒見用の夕餉を持ってきた馬宰相に相談をした。

「ふむ」

 考え込んだ馬宰相を不安気に見つめる。馬宰相が雨を見下ろして言った。

「いいですね。ただし、誰にもこのことは悟られず行ってください」
「はい」
『わん!』

 提案が採用され、喜ぶ夏晴亮(シァ・チンリァン)と雨。馬宰相がそれを穏やかに見守った。

「それでは、私は失礼します。今回は毒が無かったようで安心致しました」
「はい」
「あ、それと、少しでも危険な場合は無理せず逃げてください」
「分かりました」

 空になった食器を手に、馬宰相が部屋を後にした。

「さて、さっそく報告しておかないと、後で面倒なことになりそうですね」

 その足で向かった先は、任深持(レン・シェンチ―)の部屋だった。簡単に報告を済ませると、予想通りの反応が返ってきた。

「何故そのような真似をさせる? あれに務まるはずがない」
「お言葉ですが、彼女は高等精霊の姿をその瞳に映し、操ることが出来ます。学び舎で学ばずにです。それだけの才能があれば、不可能ではないかと」
「そういう問題ではない!」

 任深持が机を叩く。馬宰相はバレないように息を吐いた。

「せっかく術師にならないと約束させたのに」
「まだ、です。唯一の女性術師になったら周りの人間が放っておかないですから、任深持様としては心配ですね」
「心配ではない!」

 報告したのに、結局面倒なことになった。夏晴亮が来てから彼は変わった。それは良い意味でだが、それを上回る面倒さが馬宰相の胃をきりきりさせる。

「とにかく、彼女の実力は本物ですから、我々は大人しく見守りましょう」
「…………もういい」
「それでは失礼致します」









「さて、阿雨。重要な役目をもらったから、慎重に行きましょ」
『わん』

 一人と一匹しかいない部屋で作戦会議を始める。

 実は夏晴亮にはすでに容疑者が一人浮かび上がっている。先日、偶然出会った余紫里だ。

 彼女は調理場から出てきた。側室が出入りする場所ではない。つまり、何か用事があってそこにいたということだ。

 毒は料理に入れられている。つまりはそういうことではないかと睨んでいる。あまりに単純だが、結末はあっさりしていることもある。

「悪い人には見えなかったけど、万が一ってこともあるしね」
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