後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
花束を貴方に
一人きりではない買い物を始終楽しんだ夏晴亮だったが、買ったのは最初の勉強道具のみだった。
「それだけでよかったの? まあ、申請すれば自由に王都にはまた行かれるけど」
「欲しいのが出来たらその時買おうと思います」
「堅実ね」
というより、単純にお金を使うことに慣れていないといった方が正しい。見知らぬ人間の手伝いをして、その日生きられるだけのものをもらうことが多かったので、娯楽品を買うなんて考えたことすらなかった。
だから、一か月分の給与も夏晴亮にとっては大金で、それをどうやって使えばいいのか分からなかった。
住み込みの仕事は衣食住の心配がなく、はっきり言ってもらった給与を必要以上に貯めずとも問題無いのだが、夏晴亮がその域に達するのはまだまだ先だろう。
買い物が好きだという馬星星は買い物袋がパンパンになるまで買っていた。
「お菓子も買ったから、あとで一緒に食べましょ」
「はい」
馬星星の引き出しはお菓子で溢れている。常に一週間分は常備していると言っていた。
お菓子というものは素晴らしい。夏晴亮は最近初めて食べたのだが、噛んだ瞬間甘味が口中に広がって、それだけで幸せいっぱいになった。普段食べる食事も十分美味しいのだが、それを上回る衝撃に思わず飛び跳ねてしまった。
「私も次回はお菓子を買ってみたいです」
「うん、良いと思う。私のおすすめ紹介するわね!」
部屋に戻り、買い物したものを仕舞う。馬星星は整理にまだかかりそうだ。午後の仕事に向け先に廊下へ出ると、いきなり花束を差し出された。
「美しい夏晴亮、貴方にこれを」
「え、と、有難う御座います」
渡された花束はコロンとした小さくて可愛らしいもので、押しつけがましくない謙虚さがある。よく見ると、たまに落ちている花、つまり買い物先の花屋で目にしたものと同じだった。偶然にしては出来過ぎている。この花が王都で流行っているのだろうか。
「失礼ですが、貴方は……」
「私は任明願と申します。以後お見知りおきを」
そう言って、任明願は去っていった。あっという間の出来事に呆然とする。追いかけて、理由を聞くことも出来なかった。
とりあえず、傷む前に花を生けなくては。部屋に舞い戻ると、馬星星が目を丸くさせた。
「どうしたの、その花束」
「私にも何がなんだか。廊下で、任明願さんという方に頂いたのです」
「まあ、任明願!」
「それだけでよかったの? まあ、申請すれば自由に王都にはまた行かれるけど」
「欲しいのが出来たらその時買おうと思います」
「堅実ね」
というより、単純にお金を使うことに慣れていないといった方が正しい。見知らぬ人間の手伝いをして、その日生きられるだけのものをもらうことが多かったので、娯楽品を買うなんて考えたことすらなかった。
だから、一か月分の給与も夏晴亮にとっては大金で、それをどうやって使えばいいのか分からなかった。
住み込みの仕事は衣食住の心配がなく、はっきり言ってもらった給与を必要以上に貯めずとも問題無いのだが、夏晴亮がその域に達するのはまだまだ先だろう。
買い物が好きだという馬星星は買い物袋がパンパンになるまで買っていた。
「お菓子も買ったから、あとで一緒に食べましょ」
「はい」
馬星星の引き出しはお菓子で溢れている。常に一週間分は常備していると言っていた。
お菓子というものは素晴らしい。夏晴亮は最近初めて食べたのだが、噛んだ瞬間甘味が口中に広がって、それだけで幸せいっぱいになった。普段食べる食事も十分美味しいのだが、それを上回る衝撃に思わず飛び跳ねてしまった。
「私も次回はお菓子を買ってみたいです」
「うん、良いと思う。私のおすすめ紹介するわね!」
部屋に戻り、買い物したものを仕舞う。馬星星は整理にまだかかりそうだ。午後の仕事に向け先に廊下へ出ると、いきなり花束を差し出された。
「美しい夏晴亮、貴方にこれを」
「え、と、有難う御座います」
渡された花束はコロンとした小さくて可愛らしいもので、押しつけがましくない謙虚さがある。よく見ると、たまに落ちている花、つまり買い物先の花屋で目にしたものと同じだった。偶然にしては出来過ぎている。この花が王都で流行っているのだろうか。
「失礼ですが、貴方は……」
「私は任明願と申します。以後お見知りおきを」
そう言って、任明願は去っていった。あっという間の出来事に呆然とする。追いかけて、理由を聞くことも出来なかった。
とりあえず、傷む前に花を生けなくては。部屋に舞い戻ると、馬星星が目を丸くさせた。
「どうしたの、その花束」
「私にも何がなんだか。廊下で、任明願さんという方に頂いたのです」
「まあ、任明願!」