後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

花屋にて

 中に入ると、本が連なり、その横には知育用の玩具なども置いてある。所狭しと並んだ商品に夏晴亮(シァ・チンリァン)は瞳を輝かせた。

「すごいです」
「良い品があるといいね」
「はい」
「私は本探すから、ゆっくり見てて」

 馬星星(マァ・シンシン)と別れ、じっくり商品を一つ一つ見ていく。文字は小さくてもいいが、なるべく分かりやすいのがいい。

「似た漢字とか仕事で使う漢字も載ってるのがいいなぁ」

 そうなると、難易度で二種類買った方がいいかもしれない。夏晴亮が悩んでいたら、横からにゅうっと一冊の本が差し出された。

「これなんかどうかしら。基本の読み書きが出来るようになったらすんなり読めそう」

 どうやら、馬星星の方でも夏晴亮用の本を探してきてくれたらしい。応用編らしいが、表紙を見る限り宮女の仕事にも繋がりそうだ。

「宮廷のこととか、この国の歴史とかも簡単に書いてあるみたい。すぐ関わることは多くないけど、きっと役に立つと思う」
「有難う御座います」

 受け取ろうとすると、馬星星が片目を閉じて言った。

「馬先輩からのちょっとしたお祝いってことにして。ね?」
「あ、有難う御座います……!」

 会計しに行った馬星星の背中に改めて礼を言う。誰かに贈り物をされるなんて初めてだ。夏晴亮の頬が染まる。

 宮女になってからほんの数週間で沢山の出来事が起きた。それも嬉しいことばかり。良い先輩たちに恵まれて、自分は幸せ者だと思う。

「これにしよう」

 馬星星が戻ってくる間に、夏晴亮も自分で買う商品を決めた。幾らかの文字は読めるので、文字の書き方読み方を何度も練習できるものにした。

「決まった?」
「はい」

 購入後、馬星星から本を受け取り店を出る。なんだか気分が高揚する。勉強出来る日が来るとは思わなかった。しかも、自分の給与で購入して。帰ったらさっそく始めよう。

 帰り途中、ある花屋の前を通った。何とはなしに見ていると、たまに部屋の前に落ちている花と同じものがあった。

「ん?」

 花屋の前に誰かがいる。外衣を着ているが、裾から見える服は上等なものだ。きっと高貴な身分に違いない。花をじっと見ている。

「お花が見たいの?」
「いえ」

 花に興味があると思われて、寄ろうかと提案される。今のところ、花は部屋に飾られているので十分だ。ふるふる首を振る。花を見ていた男が二人に気付いたのか、慌てて去っていった。

 客の邪魔をしてしまったか。悪いことをした。それならここを早く離れよう。あとで戻ってくるかもしれない。夏晴亮は馬星星とともに、他の店へと移った。
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