後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

毒を入れる方法

 しばしの沈黙の後、(マァ)宰相が雨を連れて戻ってきた。(ユー)がすぐさま夏晴亮(シァ・チンリァン)に駆け寄り、すりすり頬ずりをしてくる。

「阿雨、お疲れ様」
『くぅん』
「そこにいるのか、犬が」

 それを任深持(レン・シェンチー)が不思議そうに眺める。彼には精霊が見えないため、夏晴亮が一人で会話しているように見えるのだろう。

「はい。真っ白い、とても賢いわんちゃんです」
「そうか」

 いつか彼にも見えるようになればいいと思うが、元々視える者以外は術師の学び舎に通い、修行を積まなければならない。それでも視えない者は視えない。だから、素質があるか入学試験があると言っていた。

「夏晴亮、こちらをどうぞ」
「有難う御座います」

 馬宰相から第二皇子親子の似顔絵を受け取る。それを雨の前に差し出した。

「調理場にこの人たちは来た?」

 問われた雨がふるふる首を振った。夏晴亮と馬宰相が顔を見合わせる。

「じゃあ、誰でもいいから、調理場を訪ねてきた人はいる?」

 その問いにもこ首が縦に振られることはなかった。夏晴亮が不安気な声を出す。

「どういうことでしょうか」
「なんだ、犯人は来なかったのか?」
「ない。誰も調理場には入っていないそうです」
「それなら、料理人の誰かということか」

 結果だけを見ればそうなる。しかし、そんな簡単なことでは済まされない気がした。

「もしくは、そこにいなくても入れる方法があるということですね」

 馬宰相の言葉に二人が頷く。

「例えば、法術で毒を入れることは可能ですか?」
「いえ、物理的に何かを出すとか、物を飛ばすなどは出来ますが、術師が存在しない場所でするとなると難しいと思います」
「精霊なら料理人に知られずに入れられそうですけど、それなら阿雨が反応しますよね」

 三人集まっても、なかなか犯人が絞り込めない。つまり、まだ情報が少ないということだ。

 ぐうううう。

 食べずに気を張っていたので、夏晴亮の腹が悲鳴を上げた。

「えへへ、大事な話し合いなのにすみません」
「いえ、冷める前に召し上がりましょう」
「有難う御座います!」

 優しい上司の元、夕餉にかぶりついた。横で任深持が一人前を食べ終わる頃、夏晴亮は多めに用意された三人前を空にしていた。

「あ」
「どうした」

 夏晴亮が皿を見つめて言う。

「今食べた料理には何も載ってませんでしたが、先ほどの料理には金箔が散らしてありました。王族用ってことですよね、あれに元々毒が入っていたら」
「良い線ですが、金箔は第二皇子にも入っております。皇帝や皇后はまた別の調理場で専用の食材から調理しているので入っているかまでは把握していませんが」
「ううん、では違いそうですね。残念」
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