後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

情報集め

 今の時点で推理出来るのはここまでか。ひとまず、毒が入った料理は何か、何曜日のいつかなど、細かい情報を集めることにした。

「一週間に数回入っていたこともありますから、決まった料理ではなさそうですが、小さい情報でもどんどん共有しましょう」
「はい」
「宜しく頼む」

 犯人を絞り込むことは出来なかったが、第一皇子の部屋で毒見をするという任務は上手くこなせたと思う。さらに、向こうからの謝罪もあった。こちらとしては、困ってはいるものの謝られる程の悩みではなかったので恐縮したが、これで穏やかな日々が戻ってくることを考えると安心している自分もいた。

「今日の料理は酢豚、と」

 部屋に戻って夏晴亮は忘れないよう、今日の料理名を紙に書いておく。何の変哲もない、変わった食材も使われていない美味しいものだった。

 翌日、そのまた翌日と毒見は続く。任深持からの贈り物はあの日から無くなった。ほっとしたようななんだか気が抜けたような。せっかく贈ってくれたものだから使ってみようと匂い袋を服に忍ばせてみたら、一瞬任深持(レン・シェンチー)にすごい顔をされた。あれはどういう感情だったのか。聞くに聞けず、しかし贈り物は大切に使わせてもらっている。

 特に気に入っているのが髪留めで、掃除中邪魔な前髪を押さえるため毎日付けている。
 珍しい物を付けていると馬星星(マァ・シンシン)に誰からもらったものか聞かれたが、第一皇子からだと伝えると急に生温い顔になって頷かれた。

「良いと思う。うん」
「有難う御座います……?」

 良いの主語が分からず適当に返答しておく。今日も毒見をしに行く。一週間経った。その間に毒が入っていたのは初日を合わせて二度。今までで一番入っていたのが一週間で四度。一度も無い週もあった。このばらつきのある頻度もよく分からない。こちらを混乱させるためか、他に目的があるのか。

 朝餉に入っていたことはない。昼餉か夕餉。特に夕餉が多い。しかし、引き続き雨に調理場の監視をしてもらっているが、毒が入っていた日に料理人以外の出入りがあったことはなかった。

 もう、夏晴亮(シァ・チンリァン)は首を傾げるしかなかった。自分は優秀な探偵ではない。高等術師でもない。これを解くにはかなりの労力がいりそうだった。

「む」

 今日は麺料理だった。任深持が夏晴亮に声をかける。

「毒か」
「はい! ばっちり毒入りです!」
「毒を口にしてこんなにも元気なのはお前くらいだろうな」
「えへへ、恐縮です」

 褒められていないのだが、単純に喜んでしまう。毒が食べられてよかった。技術もいらず身一つで、こうして人の役に立てるのだから。

「これで三度目ですね。状況整理をしてみましょう」
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