後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

兄弟

 一度目は酢豚、二度目は肉料理、三度目は麺。どれも系統が違う。共通しているのは金箔が載っているくらいだが、毒が入っていない日も金箔が散らしてある日はあった。

「食べる順番とか……ご飯とおかずはどちらを先に食べますか?」
「おかずからだが、それが毒と関係あるのか?」
「いちおう聞いてみただけです」

 任深持(レン・シェンチー)は呆れた顔を見せたが、どこに正解への糸が隠れているやもしれないため、否定することはなかった。

「飲み物と反応するとか」
「なるほど。夏晴亮(シァ・チンリァン)、良い案をもらいました。飲み物など水分を含むと毒性が増す可能性はあります。他にも案を上げてみましょう」

 三人であれこれ意見を言い合う。試しに、料理に水を入れてみたが、毒の匂いは変わらず、強くなっているようには思えなかった。

 さらに料理の内容に注目する。一度目の酢豚は酢が沢山使われていたので気にしてみたら、他の二つの料理にも酢が使われていることに気が付いた。しかし、毒が入っていない日の料理にも酢が使われていることも分かった。

「そういえば、三日前に第二皇子がいらっしゃいましたよね。あれは何だったのでしょう」

 雨からの報告で、第二皇子が調理場を訪ねたことは確認している。料理をもらうわけでもなく去っていったらしく、怪しいと言えば怪しい。

子風(ズーフォン)か。あいつはいつも俯いていて、何を考えているのか私にも分からない」

 弟でありながら、執務上関わる以外は会話をしないらしい。それだけ聞くと仲が悪いとも取れる。もしくは興味が無いか。

「兄弟ってそういう感じなんですか?」
「なんだ。お前は兄弟を知らないのか」
「はい」

 親がいない貧しい身分だということは知っているが、詳しくは聞いておらず、任深持は夏晴亮のことをあまり知らないことに気が付いた。

「たいして面白くないものだ。それより、今の生活を大切にしろ」
「そうですね。同僚の方みんな良い人で、毎日楽しいです」

 夏晴亮が笑顔を見せる。任深持が視線を外した。

「青春はそこまでにして、とりあえず第二皇子は第一皇子を快く思っていない可能性は十分にあります。毒以外でもお気を付けを」
「分かっている。この立場だからな」

 王族であれば、命を狙われることもある。これが次期皇帝ともなれば尚更だ。身内と言えども疑わなければならないこともある。
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