後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

取り調べ

 その名前に、夏晴亮(シァ・チンリァン)の顔が強張った。

 任明願(レン・ミンユェン)。いつも穏やかな話し方で、毒入れ犯人を探す手伝いをしたいと言っていた。その彼が何故。

「あ、任子風(レン・ズーフォン)様の指示で仕入れたとか」
「その可能性は十分にあるな。くそ、あいつがお前に近づいていたのも、犯人探しがどこまで進んでいるか情報を得るためだったのか」

 道理でいきなり現れて、妙に近い距離感で絡んできたわけだ。夏晴亮はようやく納得した。

「では、すぐに彼を呼びましょう」
「いや、念のため術師を二名程連れてきてからだ。このことを指摘されて、何をしでかすか分かったものではない」

 (マァ)宰相がすぐに術師を二名連れてくる。初めて見る顔だが、当然だ。普段、夏晴亮は後宮で働いていて、彼らは宮廷か外で働いている。

「第二皇子と側妃にはお伝えしますか?」
「まだいい。任明願が自白してからだ」

 もし、第二皇子の指示によるものであったら、知らせた時点で何らかの対応をされるか、逃亡する可能性もある。外堀を埋めてから慎重に行動した方がいい。

 全員で別室に移る。ここは罪人を尋問する間だそうで、今から部屋に結界を張ると術師が言っていた。

「結界を張れば、一度入った者は結界が解かれるまで退室することは出来ません」

 にっこりと怖いことを言われ、夏晴亮は恐怖し、感心した。すると、(ユー)が夏晴亮の前に立ち、術師を威嚇した。

「おや、さすがは高等精霊。主が命じずとも、自ら守りに入るとは」
「阿雨、こちらは術師の方々よ。味方だから、大人しくしていてね」
『くぅん』
「おやおや」

 間もなくして、任明願を迎えにいっていた術師が戻ってきた。もちろん、彼を連れて。

「何故ここに呼ばれたか分かるな?」

 任明願がそっぽを向いて言う。

「いいえ」

 これでは自白しているようなものだ。馬宰相が金箔が入った皿を彼に見せる。

「これが何か分かりますか」
「……黙秘しても?」
「結構ですが、無駄です。どこから仕入れているかはすでに調査済ですから」
「そうですか」

 ため息を吐いた任明願が端にいた夏晴亮を見遣る。夏晴亮は背筋を伸ばした。

「女神。貴方にバレたくなくて、どうにか犯人探しの任務から外したかったのですが。残念です」
「任先輩……」

 二人の間に第一皇子が割って入る。

「任明願。率直に聞く。これは子風から依頼されたことか?」

 その問いに、今まで静かだった声が大きく乱れた。

「違います!」
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