後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
超国
「超国か……夢物語だと思っていたのに。これは参った」
「貴方のお命を狙っているとなると、国を揺るがす大問題です」
「ああ。父上にも報告せねばならない」
まだ暴れる精霊を一瞥し、馬宰相が頷く。
「これは、明日護符を付けて放します。上手く行けば、相手国の居場所を掴むことが出来るでしょう」
「そうだな。上手く行くといいが」
なにせ、どこにあるのかすら分からない幻の国だ。雲を掴むような話に、任深持が苦笑した。
「部屋を整えたら、皆就寝してください。この精霊は箱に閉じ込めて見張りを付けます」
「はっ」
箱とは、精霊用に作られた檻である。人間の檻でも収容可能だが、高等精霊の変異で檻をすり抜ける可能性、また人間に変化して破る可能性があるため、この方法が取られている。
見張りは雲が担うことになった。
「失礼致します」
「遅くにご苦労だった」
ようやく安心して寝台に寝転がる。しかし、新たな問題が浮上してしまった。
「父上も頭を抱えるだろうな」
任深持の父親であり現皇帝である任浩聡は優しく、平和主義で有名だ。そのためここ十年以上才国に攻め入る国はなく、隣国とも友好に付き合っている。今は次期皇帝を第一皇子に決め、半分隠居生活を楽しんでいる身だというのに、申し訳なくなる話をしなければならない。悩む任深持が寝入ったのはもうすぐ夜明けという頃だった。
「ということです」
翌朝、隈とともに報告を終えた任深持の前には予想通りの皇帝の姿があった。
「そうか……深持、怪我は無かったかい」
「はい、精霊たちや部下が守ってくれました」
「それはよかった。それにしても、そうか……」
皇帝はそのまま黙ってしまった。ややあって、その重い口が開かれる。
「超国のことは知っているね?」
「はい。超国はその昔、才国の武将の一人が建てた国の名前で、その情報は今となっては無く、幻と言われている国です」
「うん、そうだ。才国から分裂した、元は一つの国。現存しているとしても、敵意を持っているとは思わなかった」
任浩聡が続ける。
「しかも、標的が深持一人に絞られているとなると、今後我が国の頂点に立つ人間を狙っているということだ。衰退、もしくは吸収を狙っているのか、どちらにせよ争いは避けられない」
平和を願う皇帝から争いという言葉を聞くと、事の重大さを改めて実感する。
「貴方のお命を狙っているとなると、国を揺るがす大問題です」
「ああ。父上にも報告せねばならない」
まだ暴れる精霊を一瞥し、馬宰相が頷く。
「これは、明日護符を付けて放します。上手く行けば、相手国の居場所を掴むことが出来るでしょう」
「そうだな。上手く行くといいが」
なにせ、どこにあるのかすら分からない幻の国だ。雲を掴むような話に、任深持が苦笑した。
「部屋を整えたら、皆就寝してください。この精霊は箱に閉じ込めて見張りを付けます」
「はっ」
箱とは、精霊用に作られた檻である。人間の檻でも収容可能だが、高等精霊の変異で檻をすり抜ける可能性、また人間に変化して破る可能性があるため、この方法が取られている。
見張りは雲が担うことになった。
「失礼致します」
「遅くにご苦労だった」
ようやく安心して寝台に寝転がる。しかし、新たな問題が浮上してしまった。
「父上も頭を抱えるだろうな」
任深持の父親であり現皇帝である任浩聡は優しく、平和主義で有名だ。そのためここ十年以上才国に攻め入る国はなく、隣国とも友好に付き合っている。今は次期皇帝を第一皇子に決め、半分隠居生活を楽しんでいる身だというのに、申し訳なくなる話をしなければならない。悩む任深持が寝入ったのはもうすぐ夜明けという頃だった。
「ということです」
翌朝、隈とともに報告を終えた任深持の前には予想通りの皇帝の姿があった。
「そうか……深持、怪我は無かったかい」
「はい、精霊たちや部下が守ってくれました」
「それはよかった。それにしても、そうか……」
皇帝はそのまま黙ってしまった。ややあって、その重い口が開かれる。
「超国のことは知っているね?」
「はい。超国はその昔、才国の武将の一人が建てた国の名前で、その情報は今となっては無く、幻と言われている国です」
「うん、そうだ。才国から分裂した、元は一つの国。現存しているとしても、敵意を持っているとは思わなかった」
任浩聡が続ける。
「しかも、標的が深持一人に絞られているとなると、今後我が国の頂点に立つ人間を狙っているということだ。衰退、もしくは吸収を狙っているのか、どちらにせよ争いは避けられない」
平和を願う皇帝から争いという言葉を聞くと、事の重大さを改めて実感する。