後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
変化の特徴
その時、控え目に扉が鳴った。
「馬牙風です。精霊を放す準備が整いました。お二人もいらっしゃいますか?」
「いや、術師でやってくれて構わないよ。私は視えないから。深持は行くかい」
「私もこちらにおります。済まないが宜しく頼む」
「承知致しました」
馬宰相が拱手して去っていく。彼のことだから、滞りなく行ってくれる。
「まずは、このようなことがないよう今後の対策を練ろう」
「金依依を保護し出来次第、詳細を確認致します」
「頼んだよ」
皇帝の自室を後にする。任深持が額に滲んだ汗を拭った。相手は才国全体を狙ってのことだろうが、今は自分一人に集中している。この段階でどうにか解決させたい。任深持はその足で宮廷の大門に向かった。
大門では術師が集まっていた。学び舎を卒業し、宮廷術師として働いている者は十人いる。その他は王都以外の場所で働いたり、残念ながら才能が開花せず違う職に就いたりしている。
「精霊は放したか」
「はい。北の方角へ走っていきました」
馬宰相が護符を見せながら報告した。対になっているもう一枚は精霊の首に取り付けており、それが発信機として超国の居場所を掴む手立てになっている。
「金依依は見つかったか?」
「つい先ほど、王都の近くで発見致しました。無事です」
「それはよかった。戻ったら知らせてくれ」
「はい」
「金依依が見つかったと伺ったのですが!」
「だい。間もなくここに参ります」
「よかった……」
半刻後、大門に当事者の面々が集まった。王美文とひとしきり喜びを分かち合った後、夏晴亮がずっと疑問に思っていたことを馬宰相に尋ねる。
「ところで、何故彼女が間者だと気付いたのですか?」
馬宰相が指を二本立てて答える。
「彼女には二点不自然なところがありました。一つ目は、雨が部屋に入ってきた時に一瞬目で追っていたこと。二つ目は、顔の表情や口数です」
「表情? 阿雲が変化した時は馬宰相と同じように感じましたが」
「人に変化しても精霊は精霊です。主から命じられたこと以外の咄嗟の動作が難しいこともあり、命令での変化の際は無表情や口数が少なくなることが多いのです」
そう説明され思い返してみると、たしかに挨拶以外で金依依と会話をしたことがなかった。夏晴亮が深く頷く。
「勉強になります」
「はい。日々励んでください」
「馬牙風です。精霊を放す準備が整いました。お二人もいらっしゃいますか?」
「いや、術師でやってくれて構わないよ。私は視えないから。深持は行くかい」
「私もこちらにおります。済まないが宜しく頼む」
「承知致しました」
馬宰相が拱手して去っていく。彼のことだから、滞りなく行ってくれる。
「まずは、このようなことがないよう今後の対策を練ろう」
「金依依を保護し出来次第、詳細を確認致します」
「頼んだよ」
皇帝の自室を後にする。任深持が額に滲んだ汗を拭った。相手は才国全体を狙ってのことだろうが、今は自分一人に集中している。この段階でどうにか解決させたい。任深持はその足で宮廷の大門に向かった。
大門では術師が集まっていた。学び舎を卒業し、宮廷術師として働いている者は十人いる。その他は王都以外の場所で働いたり、残念ながら才能が開花せず違う職に就いたりしている。
「精霊は放したか」
「はい。北の方角へ走っていきました」
馬宰相が護符を見せながら報告した。対になっているもう一枚は精霊の首に取り付けており、それが発信機として超国の居場所を掴む手立てになっている。
「金依依は見つかったか?」
「つい先ほど、王都の近くで発見致しました。無事です」
「それはよかった。戻ったら知らせてくれ」
「はい」
「金依依が見つかったと伺ったのですが!」
「だい。間もなくここに参ります」
「よかった……」
半刻後、大門に当事者の面々が集まった。王美文とひとしきり喜びを分かち合った後、夏晴亮がずっと疑問に思っていたことを馬宰相に尋ねる。
「ところで、何故彼女が間者だと気付いたのですか?」
馬宰相が指を二本立てて答える。
「彼女には二点不自然なところがありました。一つ目は、雨が部屋に入ってきた時に一瞬目で追っていたこと。二つ目は、顔の表情や口数です」
「表情? 阿雲が変化した時は馬宰相と同じように感じましたが」
「人に変化しても精霊は精霊です。主から命じられたこと以外の咄嗟の動作が難しいこともあり、命令での変化の際は無表情や口数が少なくなることが多いのです」
そう説明され思い返してみると、たしかに挨拶以外で金依依と会話をしたことがなかった。夏晴亮が深く頷く。
「勉強になります」
「はい。日々励んでください」