後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
誓い
王都で買い物をするのは、以前馬星星と行ったきりだ。仕事やら緊急な任務が入って、気が付いたら今日まで来ていた。
「買いたい物はないか」
「毎日幸せなので、特別欲しい物はなかなか思い浮かびません」
「相変わらず無欲だな」
任深持は笑ってくれるが、贈り物をしたいと言ってくれる彼の気持ちを考えると、断るばかりなのも失礼な気がしてくる。
「あの、では」
「なんだ? 何でも言ってくれ。季節外れの花でも、貴方が望むなら私が咲かせてみせよう」
夏晴亮がやや顔を俯かせた。とんでもないことを言われた気がする。何故こんなにも良くしてもらえるのか、生きるのが精一杯だった夏晴亮には理解が追いつかない。自分のどこに魅力を感じるのだろう。
頬が赤くなるのを感じながら、夏晴亮が花屋を指差した。
「あそこで花を一輪買ってくださいますか」
「一輪……よし、行こう」
小さく頷いた任深持が夏晴亮と花屋に向かう。店主が二人を出迎えた。
「これはこれはだい、お客様。どうぞごゆっくりご覧になってください」
何か言いかけたのを任深持が視線で制する。後ろにいる馬宰相が息を吐いた。
「風兄、もしかして任深持様って、ここで亮亮にお花を買ってた?」
「はい。しかも、一度本人と遭遇しています」
「そうなの!? あの時かぁ、気が付かなかった。それは気まずかったね」
馬星星が意地悪そうに笑う。
「どれがいい」
いっそ全種類一輪ずつ買おうかという言葉をぐっと我慢する。あくまで夏晴亮の希望を聞きたい。相手のことを考えず、贈る方の自分だけが満足してはいけないのだ。
「これがいいです」
夏晴亮は指差した先には、いつかの日に名前も告げず内緒で贈り続けていた、あの花があった。
「そうか。店主、一輪包んでくれ」
「かしこまりました」
店主が丁寧に花を包んでいる間、任深持が深刻な顔でそれを見つめていた。
「お待たせ致しました」
「ありがとう」
代金を支払い、店を出る。任深持が夏晴亮に向かい合った。
「これから、超国との間に争いが起こるだろう。すぐ解決するか大規模なものに発展するか分からない」
「はい」
花を両手で夏晴亮に差し出す。
「私も最前線で戦う。だが、貴方に悲しい想いはさせないつもりだ。この花が枯れないよう、貴方を、国を守る。ずっと私に付いてきてくれると嬉しい」
夏晴亮が任深持の真摯な瞳を見つめる。
──私のどこがが魅力的なのかなんて関係無い。この方は私を大切にしてくれる。痛い程分かる。もう、ぐちゃぐちゃ考えるのは止めよう。
「有難う御座います。もちろん、付いていきます」
静かに咲く花を、夏晴亮が受け取って微笑んだ。
「買いたい物はないか」
「毎日幸せなので、特別欲しい物はなかなか思い浮かびません」
「相変わらず無欲だな」
任深持は笑ってくれるが、贈り物をしたいと言ってくれる彼の気持ちを考えると、断るばかりなのも失礼な気がしてくる。
「あの、では」
「なんだ? 何でも言ってくれ。季節外れの花でも、貴方が望むなら私が咲かせてみせよう」
夏晴亮がやや顔を俯かせた。とんでもないことを言われた気がする。何故こんなにも良くしてもらえるのか、生きるのが精一杯だった夏晴亮には理解が追いつかない。自分のどこに魅力を感じるのだろう。
頬が赤くなるのを感じながら、夏晴亮が花屋を指差した。
「あそこで花を一輪買ってくださいますか」
「一輪……よし、行こう」
小さく頷いた任深持が夏晴亮と花屋に向かう。店主が二人を出迎えた。
「これはこれはだい、お客様。どうぞごゆっくりご覧になってください」
何か言いかけたのを任深持が視線で制する。後ろにいる馬宰相が息を吐いた。
「風兄、もしかして任深持様って、ここで亮亮にお花を買ってた?」
「はい。しかも、一度本人と遭遇しています」
「そうなの!? あの時かぁ、気が付かなかった。それは気まずかったね」
馬星星が意地悪そうに笑う。
「どれがいい」
いっそ全種類一輪ずつ買おうかという言葉をぐっと我慢する。あくまで夏晴亮の希望を聞きたい。相手のことを考えず、贈る方の自分だけが満足してはいけないのだ。
「これがいいです」
夏晴亮は指差した先には、いつかの日に名前も告げず内緒で贈り続けていた、あの花があった。
「そうか。店主、一輪包んでくれ」
「かしこまりました」
店主が丁寧に花を包んでいる間、任深持が深刻な顔でそれを見つめていた。
「お待たせ致しました」
「ありがとう」
代金を支払い、店を出る。任深持が夏晴亮に向かい合った。
「これから、超国との間に争いが起こるだろう。すぐ解決するか大規模なものに発展するか分からない」
「はい」
花を両手で夏晴亮に差し出す。
「私も最前線で戦う。だが、貴方に悲しい想いはさせないつもりだ。この花が枯れないよう、貴方を、国を守る。ずっと私に付いてきてくれると嬉しい」
夏晴亮が任深持の真摯な瞳を見つめる。
──私のどこがが魅力的なのかなんて関係無い。この方は私を大切にしてくれる。痛い程分かる。もう、ぐちゃぐちゃ考えるのは止めよう。
「有難う御座います。もちろん、付いていきます」
静かに咲く花を、夏晴亮が受け取って微笑んだ。