後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

付いていきます

 初めてされた「お願い」に、任深持(レン・シェンチー)はその手を振りほどけないまま答えた。

「危険過ぎる。貴方はここで待っていてくれ」
「それは私が女だからですか?」
「大切だからだ」

 それに夏晴亮(シァ・チンリァン)が優しく微笑んだ。

「あら、なら私だって貴方が大切ですよ」

 予想外の応酬に、任深持が右手で頭を掴んで唸る。

「それは嬉しい……だが」

 どう説得していいか迷う任深持に夏晴亮が続けた。

「それに、私、毒見師ですよ。旅路の食事の方が毒を盛られる機会は沢山あります。必要な役職じゃありません?」
「ふふっ……任深持様の負けですわ」

 隣で聞いていた王美文(ワン・メイウェン)が笑い出した。笑いごとではないのに、彼女が笑うとどうにかなりそうな気がしてくる。

「わ……かった。しかし、貴方には専属の護衛を付ける。守りの護符も持ってもらう。術師に攻撃から身を守る結界を張ってもらう」

「過保護~……」
「術師はなんでも屋ではありません。出来る限りは致しますが」

 任深持の心配性振りに馬氏(マァし)二人が呆れる。改めて、彼の側妃に対する想いの深さを思い知る。

「はい、決まり。申し訳ありませんが、私はお留守番させて頂きますわ」
「もちろんだ。父上たちとともに吉報を待っていてくれ」
「はい」

 こうして、才国側の進軍が決定した。もちろん、こちらに戦争を仕掛ける気は無い。李友望(リィ・ヨウワン)の墓が超国内ではなく空振りに終わる可能性もある。しかし結果がどうあっても、才国の未来の為、今は前に進むしかない。

「万が一を考えて、宮廷軍の一部隊を残し、それ以外は進軍に参加してもらう。術師は半分残し、結界の強化に努めよう」
「はい。各軍、術師に通達致します」

 翌日、宮廷付き軍が集められ、才国を纏う状況が告げられた。

 今回の目的は情報集めであること、超国と接触した場合話し合いを優先させること、相手の出方により戦争に繋がる可能性もあること。第一皇子が襲われたことは把握していたため、驚きより覚悟の声が漏れた。

「夏晴亮様。このたび軍の大将を命じられました、朱卓凡(ヂュ・ヂュオファン)と申します。以後お見知りおきを」
「はい。宜しくお願い致します」

 朱卓凡とは初対面ではない。偽金依依騒動の時に一度顔を合わせている。とは言っても話したことはないので、改めて挨拶をした。

 こうして諸々のことが決まっていくと、ついに旅立つのだと実感する。任深持に付いていく覚悟は出来ているが、果たして自分が役立てるのか不安も大きい。

阿雨(アーユー)、大変なことに巻き込んでごめんね」
『わんッ』

 今回の進軍の一員として、雨も一緒に行くことになっている。夏晴亮の専属護衛として任命されたのだ。
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