明日に夢を見ようか。 不良になれなかった俺のギャラクシーノート
 そこへ結城がフラリトやってきた。 「大村さん 昨日は飲んだんですか?」
「ああ。 考え事してたら飲み過ぎちまったよ。」 「大村さんらしくないなあ。 どうしたんです?」
「何でもないよ。」 慌てて手を振る大村さんに結城は何かを感じた。
(何か有りそうだな。) そう思いながらテーブルの上に置いてある紙に目が止まった彼は思わず顔を背けてしまった。
「じゃあまた来るよ。」 そう言うと結城はドアを閉めてささくさと歩いて行った。
 一人になった大村さんは古館が残していったカルテを恨めしそうに見詰めてからゴミ箱に放り込んだ。 「これまでの俺はどうだったんだろう?」
狼との乱闘騒ぎを起こした頃、松尾も森下もどっか渋い顔をしていた。 「それはいいけど大丈夫なのか?」
松尾はいつも俺にそう聞いてきた。 もしかして何か気付いていたのか?
 森下慎吾は近藤とも仲がいい。 あいつの姉ちゃんのこともよく知っている。
そんな森下が「乱闘はいつでも出来るだろう? ちっとは考えろよ。」って言ってきたことが有った。 それがもしかしてあいつのことだったのか?
 あれやこれや考え込んでいたら昼になっちまった。 大村さんは気分を替えようと外へ出た。
「おー、大村さんじゃないっすか。 散歩ですか?」 そこへ黒瀬が歩いてきた。
「やあ黒瀬じゃないか。 仕事の帰り?」 「まだまだ途中ですよ。 大村さんこそ何をしてるんです?」
「気分転換に近藤と話してこようと思って。」 「近藤? ああ、解散式の日に狙われたあの人ね。」
「そうだ。」 「あの事件もまだまだなんでしょう? そう言えば彼女は元気なんでしょうかねえ?」
「そっちのほうはだいぶまいってるんだ。」 「何で?」
「昨日、古館が来たから聞いたんだ。 そしたらさ、、、。」 ここで大村さんは声を潜めた。
 「何だって? 彼女が高中の子供を産んだって?」 「そうらしいんだ。 産婦人科のカルテも有るんだよ。」
「そうか。 でも何か変だよな。」 「何が?」
「何で高中なんだろう? 出来過ぎてないか?」 「そうとも思ったけど産婦人科がカルテを書いてるんじゃ、、、。」
「何処の産婦人科?」 「石川だよ。」
「じゃあ俺が調べてみるよ。」 「何かコネでも有るのか?」
「知り合いに医者が居るからさ。」 瑞樹は軽く手を上げて去っていった。
 何やら奇妙な物が動き回っているような気がする。 変な事件ばかりが起きる。
次には何が起きるのか?

 大村さんはぼんやりした頭で大下駅前にやってきた。 あの親父さんが屋台を出しているロータリーを歩いてみる。
「よくもまあここで続けていられるなあ。」 ブラブラと歩きながら辺りを見回してみる。
今はまだ昼。 駅前のラーメン屋も営業中。 美味そうな匂いが漂ってくる。
 「もうちっと歩いて病院に顔を出してくるか。」 大村さんはまた歩き始めた。
(やつが妊娠して子供を産んだのであれば近藤が気付かないわけが無い。 どう考えてもおかしいぞ。) 去年の夏なら大村さんは確かに恋愛どころじゃなかったけど。
あれやこれやと考えながら歩いていたら病院に着いてしまった。 (今日はどうだろうなあ?)
だいぶ良くなったような話は聞いている。 でも自分の目で確かめなければ、、、。
 「やあ、近藤。 体はどうだ?」 「少しずつ動けるようになってきたよ。 まだ痛むけど、、、。」
「ごめんな。 近藤にそんな思いをさせちまって。」 「いいんだ。 たまの付き合いで飲んだらやられちまっただけだから。」
「たまの付き合いか。 言うなあ。」 「岩谷さんはどうしてるんです?」
「どうしてるって? 元気だよ 相変わらず。」 「そうなんすね? 良かった。」
 「ところでさ、近藤。 姉さんのことで気付いたことは無いか?」 「気付いたこと?」
「誰かと仲良くしてたとか。 誰かに付きまとわれてたとか、、、。」 「さあなあ。 一緒に住んでたけど気付かなかったな。」
「そっか。 悪いな。」 大村さんは腑に落ちない顔をして病室を出て行った。
 (何か有ったのかな? 大村さんが姉ちゃんのことを気にしてるなんて変だぞ。) そこへ健太郎が見舞いに来た。
「元気そうだなあ。」 「いやいや、これでもまだまだだよ。」
「だいぶ顔色も良くなったしそろそろ動けるんじゃないのか?」 「健太郎みたいにはならないよ。」
「馬鹿言え。 お前だって元はと言えば泣く子も黙るバイク野郎だろうがよ。 暴れたっていいんだぜ。」 「止してくれよ。 お前じゃないんだから。」
「まあいい。 それはそうと何を考え込んでるんだ?」 「姉ちゃんのことだよ。」
「ああ、、、、。」 健太郎はしばらく腕組みをして考え込んだ。
 「変わったことは無かったかって大村さんが聞いてきたんだ。」 「変わったこと?」
「何のことか分からないけど俺は気付かなかったんだよなあ。」 「変わったことか、、、。」
 健太郎はここ数年のことを思い返してみた。 だが思い当たることは無い。
「まあ様子を見て調べてみるよ。 また来るから。」 病室を出て行く健太郎の背中に俺は何かを感じた。

 「何? 石川産婦人科だって?」 瑞樹は古くからの友人 谷山正文の家を訪ねた。
谷山は水曜木曜を休診日にして土日の患者を受け入れている変わっている男だ。
 「そうなんだよ。 大村さんの彼女が去年の夏に子供を産んだって言うんだ。」 「去年? あの病院はもうやってないぞ。」
「何だって? やってない?」 「そうだ。 10年前に妊婦を殺しちまって院長が逮捕されたもんだから廃院してるぞ。」
「じゃあ、石川産婦人科のカルテってのは?」 「おそらくは偽物だろうな。 昔の患者のやつを掘り出したのかもね。」
「昔の患者?」 「そうだ。 それってさあ高中が絡んでるんじゃないのか?」
「よく分かるなあ。」 「やっぱりか。 あいつは昔からそんな男だよ。」
「どういうことだ?」 「気に入らないって思うとデマを叩き付けて追い込んでくるんだ。 しかも医者とか弁護士とかもっともらしい人間を付けてな。」
「それでやられたやつはどれくらい居るんだ?」 「裁判だけで20件は有る。 でも費用が掛かり過ぎて途中で終わってるやつが多いな。」
「そうか。 打つ手を間違えたら大村さんもやられるな。」 「そういうことだな。」
瑞樹は谷山の家を出て石川産婦人科が建っていた辺りを歩いてみた。 建物はまだ残されたままだ。
「この病院か。 幽霊が出るって話も有ったよな。」 一回りして大下駅前に出てみる。
 親父さんの屋台もそろそろ準備を始めるかって頃らしい。 備長炭を砕いた炭を焼き台に放り込む。 今夜のたれも自信作だ。
屋台を見ながらコーヒーを飲んでいると結城が歩いてきた。 「黒瀬君じゃないか。」
「やあ、親衛隊長殿。」 「親衛隊はやめてくれよ。」
「いいじゃないっすか。 今夜も飲むんですか?」 「最近はどうもおかしなことばかりだからねえ。」
二人は揃って親父さんが出した丸椅子にドカッと腰を下ろした。 「来たか。」

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