明日に夢を見ようか。 不良になれなかった俺のギャラクシーノート
 「何? 大村君の彼女が誘拐されたってか?」 飛び込んできた結城の話を聞いた大森刑事は顔を曇らせた。
「何か?」 「いや、大村君に動かれては困るんだよなあ。」
「それは俺たちも同感です。 だからこうして、、、。」 「分かった。 証拠は有るのか?」
「事務局からこの写真を貰いました。」 「こいつは、、、。」
 その写真を見た他の刑事たちも同時に顔を見合せた。 「高中幸太郎だ。」
「っていうと、あの高中議長の?」 「そうだ。 こいつに動かれたら下手な手出しは出来なくなる。」
「親父さんが失脚でもしない限り無理だろう。」 「だよなあ。 署長だって丸め込まれたんだから。」
「そこまで?」 「ああ。 あいつは容赦の無い男だからな。」
 結城が話している所へ岩谷さんも駆け込んできた。 「岩谷君もどうしたんだ?」
「いえいえ、大村さんの家に脅迫電話が掛かってきたそうで、、、。」 「脅迫?」
「そう。 二日以内に3000万用意できなければ彼女を殺すって。」 「本気だな。 高中。」
 少年課は過去の歩道歴などを調べ始めた。 高中の弱点を焙り出すために。

 結城は岩谷さんと一緒に警察を出た。 「これからどうするんだい?」
「分からん。 あいつが大村さんを狙ってくる理由も目的も。」 「そうだよなあ。 松尾は何か知ってるんじゃないのか?」
「とは思うけど今が今だ。 はいこれって風にはいかないよ。」 「それはそうだけど、、、。」
「有るとすれば獄導に恨みが有るとか無いとかそんなもんだろう。」 「しかし高中には、、、。」
「そこなんだよ。 やつは獄導には絡んでないんだ。」 「ますます分からん。」
 二人が歩いていると警邏隊のパトカーが勢い良く走り去っていった。 サイレンも鳴らさずに。
 そんな岩谷さんに大村さんから電話が掛かってきた。 「大村さん 大丈夫なんですか?」
「大丈夫なわけねえだろう。」 「それもそうだよな。 んでどうしたんです?」
「柊が動いてる。 気を付けてくれ。」 「へ? 柊が?」
「そうだ。 あいつが何かやらかしそうな予感がする。」 「じゃあ今回の事件とも?」
「柊と高中は根っからの腐れ縁だ。 柊が動けば高中も動く。」 「柊ってそんなやつなんすか?」
「ああ。 あいつらは中学時代から悪さばかりしてた連中だ。 強姦でも逮捕されてるくらいにね。」 「じゃあ彼女も、、、。」
「心配は心配なんだ。 でも今は動けない。」 「だよなあ。」
 看板の陰に隠れて話を続けている二人の脇をまた警邏隊のパトカーが走り過ぎていった。 「よく通るな 警邏隊。」
「何だって?」 「さっきから何台も警邏隊のパトカーが走っていくんだよ。」
「お前たち、今何処に居る?」 「本川辺町だ。 少年課の帰りだよ。」
「本川辺町か。 そこからどっちに向かって行ったんだ?」 「こっちは東だから旭台のほうだな。」
「旭台?」 「どうしたんっすか?」
「あいつが拉致された家が在るんだ。 そっちのほうに。」 「ということは張り込み?」
「いや、そうじゃないだろう。 目立てば何をされるか分からない。」 「そうだよね。」
 結城は一瞬、嫌な予感がした。 電話を切った後、結城は松尾の事務所へ飛び込んだ。
 松尾は相談を終えてキッチンでコーヒーを飲んでいる所だった。 「結城か。 どうしたんだ?」
「高中の息子が動いた。」 「何だって? 何をやらかしたんだ?」
「大村さんの彼女を誘拐したんだよ。」 「あの野郎、ついに動きやがったか。」
「どうやら裏で柊が操ってるらしいんだ。」 「柊か、、、。」
 松尾はコーヒーを飲みながら結城に戸棚の冊子を出すように言った。 「これに何が?」
「ここ20年分の少年院の入所記録が収めてあるんだ。」 「そんなの調べて、、、。」
「柊の親は保護観察官だったんだ。」 「それと今回の事件が、、、。」
「でもな、親父も誘拐事件を起こして懲戒免職になってるんだよ。」 「親も親なら子も子ってか。」
二人は冊子を開いて溜息を吐いた。 「あの二人は仲良く少年院に入ってる。 最後には少年刑務所にまで同行してる。」
「根っからの悪だって大村さんも言ってたけど本当なんだなあ。」 「問題はこの後だよ。」
「この後?」 「そうだ。 まだお前のだちのあの事件も解決してないんだ。 ややこしくなる前に何とかしたいんだけどなあ。」
「それは俺たちも願う所だよ。 でも相手が浮かんでこない。」 「写真でも有れば割れたんだけどなあ。」
「夜中だし酔ってたしカメラは持ってないし無理だよ。」 「だよな。」
 松尾の事務所を出た二人はすっかり頭を抱えてしまった。 そこへ電話が掛かってきた。
「もしもし。 ああ高柳か。 どうした?」 「実は斎藤智久がやられました。」
「何だって? 斉藤が?」 「そうです。 バイトを済ませて家に帰ってきたところを後ろからやられたらしい。」
「で、今はどうなんだ?」 「頭をやられてるから何とも言えないらしい。」
 電話を切った結城は深く溜息を吐いた。 「斎藤がやられたって。」
「ほんとか?」 「ああ。 後ろからやられてるから誰だか分からないらしい。」
「これじゃあどうしようもないぜ。」 岩谷さんは転がっていたビール缶を思い切り蹴飛ばした。
 「どうすりゃいいんだい?」 「それが分かれば苦労しないよ。」
「それもそうだな。」 二人は話しながら大下駅前にやってきた。
このロータリーには毎晩美味そうな匂いを漂わせている焼き鳥の屋台が出る。 食べたことは無いんだが、ここの店主は物知りだと聞いている。
「あのおっさんに会ってみるか。」 「あのおっさん?」
「そうだ。 焼き鳥屋台のおっさんだ。」 「ああ、あの人ね。」
「知ってるのか?」 「何度か見掛けただけだけど。」
「そっか。」 岩谷さんは結城と別れて喫茶店に入っていった。
 その後、斎藤が死んだことが大村さんから伝わってきた。 「何とかして敵を討ちたいもんだな。」
「それは分かるけど大村さんはまだ動かないほうが、、、。」 「そうだよな。」
「で、彼女のほうは?」 「何も言ってこない。 何をしたいんだかさっぱり分からん。」
「そりゃまいったな。 息を潜められたら探りようが無いじゃないか。」 「それもそうだ。 こっちから焙り出してみるか?」
「止せ。 何をやってくるか分からない相手なんだぞ。」 「それはそうだけどこうも動かないんじゃ、、、、。」
そこへ郵便配達員が手紙を郵便受けに入れていった。 「何だろう?」
 その手紙を取り出した岩谷さんは蒼くなった。 「大村さん 獄導の山下を殺すって言ってきたよ。」
「何だって? 山下を?」 「ああ。 彼女が居るらしい家の周りを探ってたみたいだ。」
「あいつがそんなことをするかな?」 「分からない。 でも今は様子を見るしか、、、。」
「そうだな。」 大村さんは腕組みをして考え込んでしまった。

 その夜、岩谷さんは大下駅前にやってきた。 「やってるやってる。 食べたいなあ。」
かねてから噂には聞いていた焼き鳥屋台 黒瀬の暖簾を潜ってみる。 「いらっしゃい。 始めて見る顔だね。」
「前から来たいとは思ってたんですよ。 でもなかなか来れなくて。」 「そうかいそうかい。 何飲むね?」
「日本酒にしようかな。」 「あんた飲みそうだもんなあ。」
「分かりますか?」 「長年やってんだ。 それくらいは分かるよ。」
 親父さんは皴を刻み込んだ顔で笑っている。 焼き台には皮とか肝とか軟骨とか美味そうなのが並んでいる。
今夜はまだまだ岩谷さんくらいしか来てなくて椅子はまだまだ空いている。 ロータリーは夕方の賑わいも失せて静かになっている。
 「美味いねえ。 軟骨なんて初めて食べたけど。」 「そうか? こいつを焼くのはコツが要るんだぞ。」
日本酒を飲みながら岩谷さんは美味そうに肝や軟骨を食べている。 「ところであんた、もしかして獄導のやつじゃないかい?」
「何で分かるんすか?」 「俺、実はさ弁護士の松尾君と友達なんだよ。 それで大村君とかあんたたちの話はよく聞いてたんだ。」
「そうなんっすね?」 「大村君も大変だなあ。 彼女を取られたそうじゃないか。」
「そうなんです。 でも動けなくて困ってるんですよ。」 「だろうなあ。 松尾君も話してたわ。」
 と、そこへ会社員らしい男がやってきた。 「頼んでもいいかい?」
「ああ、どうぞ。」 「砂肝と川と豚バラを2本ずつ。」
「飲むかい?」 「酒はいいよ。」
(変なやつだな。) 岩谷さんは警戒しながら日本酒を飲んでいる。 男はさっさと食べてしまうと1万円札を置いてさっさと行ってしまった。
 「あの人、たまに来るんですか?」 「そんなには見ない顔だね。」
「そうなんだ。」 「何か?」
「いや、どっかで見たような顔だなと思って。」 「気を付けたほうがいい。 あいつは高中の弟だよ。」
「何だって?」 「大村さんの彼女をやったのも高中なんだろう?」
「ええ。」 「そいつの叔父に当たる男だ。 あいつは県議会議員だからね。」
「厄介なやつだなあ。」 「ほんとに厄介だ。 うるさいやつにはとことんうるさいらしいからな。」
「腹もいっぱいだしそろそろ帰るかな。」 「ああ。 気を付けて帰るんだよ。」
親父さんは残っていた皮を岩谷さんに持たせてくれたらしい。 それを持って彼は大村さんの家にやってきた。
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