明日に夢を見ようか。 不良になれなかった俺のギャラクシーノート
 結城が肝を齧っているとジャージ姿の男がフラリとやってきた。 「おー、瑞樹。 仕事終わったのか?」
「腹減ったよ。」 「分かった。 肝と皮を焼いてやる。」
 親父さんはどっか嬉しそうだ。 「瑞樹に紹介しよう。 こっちは結城さんだ。 大村さんの親衛隊長だよ。」
「親父さん 親衛隊長は言い過ぎだよ。」 「じゃあ今朝、殴られてたあの人と、、、。」
「何か有ったのか?」 「俺が散歩してたら誰かが殴られてたんだ。」
「殴ったのは? 狼の安原だよ。」 「そっか。 そいつに岩谷さんはやられたんだ。」
「岩谷って昨日食べに来たやつじゃないか。」 「安原は何かを勘違いして獄導を潰そうとしてた。 だから誰でも良かったんだよ。」
「それで安原は?」 「一発鳩尾に決めたら伸びちまった。」
「そうか。 お前も大変だなあ。」 「もっと大変なのは大村さんだよ。 彼女を取られたんじゃじっとしていられないだろうに。」
「それもそうだな。 ところでお前に考えが有るのか?」 「そう簡単には言えないよ。」
「それはそうだな。」 瑞樹は食べ終わると金を払ってさっさと帰っていった。
 (あの腕で殴られたら一溜りも無いなあ。) 結城がぼんやりと見詰めていると、、、。
 「俺さあ、柔道の選手だったんだよ。 オリンピックも目の前まで見てたんだ。」 「出なかったんすか?」
「あの当時、大島健吾ってやつが居て、そいつにはどうしても勝てなかったんだ。 それで諦めたんだよ。」 「もったいないなあ。」
「嫁さんはこれまたテコンドウの選手だったんだ。 こいつはオリンピックにも選ばれてる。」 「そして瑞樹君が?」
「そうだなあ。 スパルタで相当に鍛えたからなあ。 この辺じゃあ敵は居ないだろうなあ。」 「そこまで、、、。」
 結城はもう一度瑞樹の腕を思い出した。 (確かにあれじゃあ勝てないな。)
皮を齧っていると大村さんがやってきた。 「オー、大村君じゃないか。 久しぶりだな。」
「親父さん 瑞樹君にありがとうって伝えてくれないか?」 「ああ。 岩谷君のことだろう? さっき瑞樹が来たから結城さんにも紹介しといたよ。」
「ありがとう。 で、豚バラと軟骨を貰おうかな。」 「あいよ。」
 親父さんは慣れた手付きで軟骨も焼いていく。 「美味いんだよなあ これ。」
大村さんも嬉しそうな顔で焼けるのを待っている。 「今夜くらいは飲もうかな。」
「何飲む?」 「日本酒でいいよ。」
 もう11時。 駅前通りはしんと静まって野良猫すら居ない。
たまにタクシーが走ってくる程度で他に騒ぐやつも無く、不気味なくらいに落ち着いた夜である。 屋台という屋台は他に無い。
駅の街灯が消える12時には親父さんも家に帰ってしまうから風の音だけが聞こえる昔に戻ってしまうようだ。
 獄導もやるだけのことはやった。 狼とはいつも睨み合っていた。
派手に殴り合いをして何人も死んでいった。 捕まったやつだってたくさん居る。
その中で大村さんはチンピラ連中を社会に送り出しても来た。 そいつらが今では独り立ちして酒の相手になっている。
 結城だって元はと言えば手の付けられないチンピラだった。 大村さんたちに殴りかかってきた時、彼は結城の眼を見た。
そしてそのまま焼き鳥屋に連行して店が終わるまで話し続けた。 最初は聞いている振りをしていた結城も終いには涙を流すようになった。
「分かったか。 喧嘩ってのは本当に強い相手とやるんだ。 弱いやつばかり相手にしてるんじゃ喧嘩とは言えん。 それよりもお前、まともに働いてみたらどうだ?」 「働く?」
「お前だって一応は大人なんだ。 働いて人の役に立て。」 「俺が?」
「何か出来るだろう?」 そう言って大村さんは今の仕事を紹介してくれたんだ。
それから5年。 岩谷さんとも知り合ってここまでやってきた。
そして獄導は解散したんだ。 あっという間だった。
 屋台を出た二人は夜の町を歩いている。 そしてあの現場に来た。
「ここだよな?」 「ああ、そうだ。 ここでやつがやられたんだ。」
人通りも絶えた真夜中にその事件は起きた。 もう一か月以上前の話だ。
 「そろそろ決着させたいな。」 「まあ焦るな。 警察も動いてくれてるんだから。」
「お前か。 俺を付けてたのは?」 「は? 知らねえよ。」
「嘘吐くんじゃねえ。 俺の後を付いてきてただろう?」 「何処に証拠が有るんだよ?」
「結城、行こうぜ。 こんなの相手にしてたら腕が何本有っても足らねえよ。」 「何だと? 貴様、俺を誰だか知ってて言ってるのか?」
「知らねえよ。 いちいちうるさいなあ。」 大村さんは男に構わず歩き始めた。
 「てめえ‼ 舐めんじゃねえぞ‼」 「おっと危ねえ。 暴力はダメだぜ。」
「何 いい子ぶってんだ? 貴様‼」 「だからやめときなって。 お前みたいな下っ端に適う相手じゃないんだから。」
「てめえ 言わせておけば、、、、。」 「大村、俺に任せとけ。 片付けてやるから。」
 そこに飛び込んできたのは黒瀬だった。 星野も一緒に居る。
「嫌な予感がしてたんだ。 黒瀬の親父から話を聞いた時に。」 「そうなんすか?」
「実はさ、あの男、あんたらを屋台からずっと付けてたんだよ。」 「俺たちを?」
「あいつは安原のだちだ。 小金井って修理工場の次男坊だ。」 「小金井か。」
「大村さん 知ってるんすか?」 「前の総長といつも喧嘩してたやつだよ。」
「じゃあ元は獄導に?」 「そうだ。 総長が腹を立てて追い出したんだよ。」
「それで狼に行ってたんですね?」 「安原はたぶんまた狙ってくる。 俺たちはあいつを動かしてる裏方を探してるんだ。」
「気を付けるんだぜ。」 「大村さんもな。」
 星野も何処かへ行ってしまった。 辺りをまたまた静かな宵闇が包んできた。
 「しかしまあ変なのがウロウロしてるなあ。」 「ほんとだぜ。 って俺たちも変だったりして。」
「まあなあ。 もう真夜中だぜ。 帰ろうか。」 「幽霊さんの散歩を邪魔しちまったなあ。」
 結城はフラリト岩谷さんの家のほうに回ってみた。 まだ蛍光灯が点いてる。
「何やってんだろう?」 気にはなるが通り過ぎて寝ることにした彼は家の鍵を開けた。

 翌日、新聞を見ていた結城は顔色を失った。 小金井が自殺してたんだ。
「大村さん、小金井が死んだよ。」 「何だって? 死んだ?」
「そうなんだ。 今朝の新聞に載ってたんだけど、、、。 ほら、、、。」
 結城が記事を大村さんに見せる。 「変だなあ。 黒瀬と一緒に居たんなら自殺するような余裕は無いはずだが、、、。」
「とはいうけど、隙を狙ったとかそんなんじゃないのか?」 「分からん。 一度、黒瀬に会って話を聞いてくるよ。」
 そこへ電話が掛かってきた。 岩谷さんだ。
「どうしたんだ? 小金井の弟がうちに怒鳴り込んできたんだが何か知らねえか?」 「小金井の弟?」
「義正が動いたのか。 結城は岩谷さんの所へ行ってくれ。」 「分かった。」
 それにしても何でこのタイミングで動くんだろう? 変な話だよな。 大村さんは愛車のハーレーのエンジンを吹かした。
前は警官の真似をして警察にしこたま怒られたっけな。 やんちゃなことはするんじゃねえよって。
 ハーレーを飛ばして30分。 岩谷さんの家に着いた大村さんは怪しい人影を見た。
< 8 / 9 >

この作品をシェア

pagetop