探偵は夢中で捜査中
いつもより30分早く鳴った目覚まし時計を止める。
「結局、手がかり掴めなかったなぁ。今夜はゆっくり眠れるはずだから、長く捜査時間取れると思うけど・・・」
また頑張ろう。と心で唱えてから、侑芽は登校の支度をするべく、ベットを降りた。
##########
放課後の日直の仕事を終え、帰り支度をしていると、廊下からゴロゴロとタイヤが回るような音が聞こえてきた。
音が止んだかと思うと、教室のドアがガラッと開いた。
「侑芽ー。日誌書けたか〜?帰ろ〜」
望夢がドアにもたれながら聞いてくる。
その手には小さめのキャリーケースを引っ張っていた。
「うん。終わったよ。のんちゃん、その荷物どうしたの?」
「あぁ、これは部活の荷物。昨日言ってた生態調査に使う物品を、今朝家から運んできたんだよ。
もう部室に置いてきたから中身は空だけど」
「なるほど。いつも使っているあの物品だね。今回はボストンバック使わなかったんだ」
「こっちの方が楽だからな。さ、早く帰ろう」
侑芽はかばんを肩に下げて立ち上がる。
日誌を教卓に入れて、望夢と教室を出た。
最寄り駅に着くと、いつも通り混雑している。
改札を通り、いつもなら階段かエスカレーターを使ってホームに上がるが、今日は望夢がキャリーケースを持っているので空いていればエレベーターを使いたい。
幸い、エレベーターには誰もおらずスムーズに乗ることができた。
「あれ、なんかエレベーター変わった?」
『ホーム』のボタンを押しながら、侑芽はエレベーター内を見渡す。
しばらく乗らない間に、反対側からも降りられるように、両扉の仕様になっている。
「最近点検だか改装中だかで休止してたから、その間に工事したんだろ」
「そっか。昨日も休止中になってたね」
そういえばこの前、望夢と映画館に行く時に使った駅のエレベーターも両扉だった気がする。
ホームの階に着くと、『反対側の扉が開きます』とアナウンスが流れ、乗った時とは逆の扉が開いた。
「おっ、丁度俺らが乗る電車の真ん前じゃん。ラッキー」
2人でエレベーターを降りる。
先に出た望夢がご機嫌に言った。
「ほんとだー。これなら・・・、荷物多い時に・・・」
便利だね。と言おうとして、侑芽は言葉を切った。
そして、ホームの周りをぐるりと見渡す。
「ん?侑芽、どうかした?」
望夢が不思議そうに侑芽を振り返る。
「あ、ううん。何でもない」
慌てて望夢に追いつき、電車に乗り込む。
今日は混雑しているものの、昨日より時間が早いためか、座ることができた。
発車時刻まで少し間がある。
「そうそう。のんちゃん、明日の森林公園に行こうって言ってたやつ、待ち合わせ時間どうする?」
「そうだな。12時にここの駅前でいいんじゃないかな?俺午前中に寄るところあるし」
「じゃあ、いつもの時間の電車でいいかな?」
侑芽はかばんからスケジュール帳を出して、ペンで明日の予定を書く。
「でも侑芽、明日は土日ダイヤだから1回調べた方がいいかも」
「あぁそっか。ちょっと待ってね。今スマホで・・・」
その時、侑芽の頭の中の疑問が一気に晴れた。
それはまるで、曇り空から太陽がのぞいた時の、周りが一気に明るくなるそれとよく似ていた。
(・・・なるほどね。単純なトリックほど、分かりにくくなっちゃうってことか。難しく考えすぎていたんだな)
スマホで調べた明日の電車の時刻を望夢に伝えたところで、発車時刻となった。
電車は侑芽たちを家へと運ぶ。
そして夢の事件も解決の運びとなっていった。
##########
帰宅し、玄関に入ると家中にご飯の良い匂いが漂ってる。
今日はお父さんの少し早めのお誕生日会だ。夕飯はお父さんの大好物を作ると、お母さんは朝から張り切っていた。
キッチンに入ると、ダイニングテーブルには豪華な料理がたくさん並んでいた。
「ただいま。うわ〜いい匂い!美味しそ〜」
「おかえり〜。お父さんもうすぐ帰ってくるって。
侑芽ちゃん、プレゼントの用意はできた?」
「うん!もうラッピングもしてあるし、準備万端だよ!」
侑芽からのプレゼントは、自作したフェルト製のポーチだ。
お父さんが前に、かばんの中がすぐぐちゃぐちゃになるので、必要な物が出てこなくて困ると言っていた。そこで、このポーチに入れて整理してもらおうという訳だ。
図書館で借りたハンドメイドの本を見て作った力作で、小分けのポケットやファスナーもつけており、我ながら上手くできたと自負している。
「お母さんは?ネクタイ良いの買えた?」
「大丈夫。今日のお昼に昨日行くはずだったお店に行って、バッチリ良いの選んできたわよ!」
お母さんが侑芽に親指を立ててサムズアップのサインを送ってくる。ついでに侑芽も送り返しておいた。
侑芽が手洗いと着替えを済まして席に着くと、丁度お父さんが帰ってきて、お誕生日会がスタートした。
簡単に誕生日会の様子を説明すると、お父さんは会の始まりから終わりまで泣いて喜んでいた。
特にプレゼントを渡す時には、メガネを外して涙を拭いながら、
「侑芽ちゃん、こんなに上手にお裁縫できるようになったんだなぁ。お父さんのためにありがとう。
お母さんも、パート増やして頑張ってくれたんだよね。すごく素敵なネクタイだよ。
2人ともありがとう。お父さん、大切にするよ」
そう言って神棚に飾ろうとするので、飾らずに使ってくれと慌ててお母さんと一緒に説得した。
大体毎年、誰の誕生日会の時もこんな風に盛大に行われるのが越智家だ。もちろんレムも含めて。
お母さんがお父さんにネクタイをつけてあげながら、楽しそうにラブラブしている間に、侑芽はリビングにいるレムのところに行った。
レムはゲージの中でご飯をもりもり食べている。
(今日はレムもいつもよりスペシャルなフードだ)
侑芽に気付くと、顔を上げてクゥンと鳴いた。
「レム、美味しい?良かったね。ご飯食べ終わったら遊ぼうね。
・・・ねぇレム。私、慎也さんのアリバイ崩せたと思う。それだけじゃなくて、他のことも色々、多分分かったような気がするんだ」
レムは不思議そうに侑芽を見つめる。
「杏奈さん、きっと大丈夫だと思う。
そんな訳だから、今夜もよろしくね。謎解きから始めるよ」
侑芽は恋人がいたことはない。彼氏のことで悩む杏奈の気持ちを完全に理解することはできないかもしれない。けど、この推理が正しければ慎也と杏奈はきっと大丈夫だと思った。
いくら自分の夢の中の事件とはいえ、依頼人には真摯に向き合いたい。
今夜の謎解きで、このカップルが良い方向に行けるよう、手助けができたら良いなと侑芽は思った。
「結局、手がかり掴めなかったなぁ。今夜はゆっくり眠れるはずだから、長く捜査時間取れると思うけど・・・」
また頑張ろう。と心で唱えてから、侑芽は登校の支度をするべく、ベットを降りた。
##########
放課後の日直の仕事を終え、帰り支度をしていると、廊下からゴロゴロとタイヤが回るような音が聞こえてきた。
音が止んだかと思うと、教室のドアがガラッと開いた。
「侑芽ー。日誌書けたか〜?帰ろ〜」
望夢がドアにもたれながら聞いてくる。
その手には小さめのキャリーケースを引っ張っていた。
「うん。終わったよ。のんちゃん、その荷物どうしたの?」
「あぁ、これは部活の荷物。昨日言ってた生態調査に使う物品を、今朝家から運んできたんだよ。
もう部室に置いてきたから中身は空だけど」
「なるほど。いつも使っているあの物品だね。今回はボストンバック使わなかったんだ」
「こっちの方が楽だからな。さ、早く帰ろう」
侑芽はかばんを肩に下げて立ち上がる。
日誌を教卓に入れて、望夢と教室を出た。
最寄り駅に着くと、いつも通り混雑している。
改札を通り、いつもなら階段かエスカレーターを使ってホームに上がるが、今日は望夢がキャリーケースを持っているので空いていればエレベーターを使いたい。
幸い、エレベーターには誰もおらずスムーズに乗ることができた。
「あれ、なんかエレベーター変わった?」
『ホーム』のボタンを押しながら、侑芽はエレベーター内を見渡す。
しばらく乗らない間に、反対側からも降りられるように、両扉の仕様になっている。
「最近点検だか改装中だかで休止してたから、その間に工事したんだろ」
「そっか。昨日も休止中になってたね」
そういえばこの前、望夢と映画館に行く時に使った駅のエレベーターも両扉だった気がする。
ホームの階に着くと、『反対側の扉が開きます』とアナウンスが流れ、乗った時とは逆の扉が開いた。
「おっ、丁度俺らが乗る電車の真ん前じゃん。ラッキー」
2人でエレベーターを降りる。
先に出た望夢がご機嫌に言った。
「ほんとだー。これなら・・・、荷物多い時に・・・」
便利だね。と言おうとして、侑芽は言葉を切った。
そして、ホームの周りをぐるりと見渡す。
「ん?侑芽、どうかした?」
望夢が不思議そうに侑芽を振り返る。
「あ、ううん。何でもない」
慌てて望夢に追いつき、電車に乗り込む。
今日は混雑しているものの、昨日より時間が早いためか、座ることができた。
発車時刻まで少し間がある。
「そうそう。のんちゃん、明日の森林公園に行こうって言ってたやつ、待ち合わせ時間どうする?」
「そうだな。12時にここの駅前でいいんじゃないかな?俺午前中に寄るところあるし」
「じゃあ、いつもの時間の電車でいいかな?」
侑芽はかばんからスケジュール帳を出して、ペンで明日の予定を書く。
「でも侑芽、明日は土日ダイヤだから1回調べた方がいいかも」
「あぁそっか。ちょっと待ってね。今スマホで・・・」
その時、侑芽の頭の中の疑問が一気に晴れた。
それはまるで、曇り空から太陽がのぞいた時の、周りが一気に明るくなるそれとよく似ていた。
(・・・なるほどね。単純なトリックほど、分かりにくくなっちゃうってことか。難しく考えすぎていたんだな)
スマホで調べた明日の電車の時刻を望夢に伝えたところで、発車時刻となった。
電車は侑芽たちを家へと運ぶ。
そして夢の事件も解決の運びとなっていった。
##########
帰宅し、玄関に入ると家中にご飯の良い匂いが漂ってる。
今日はお父さんの少し早めのお誕生日会だ。夕飯はお父さんの大好物を作ると、お母さんは朝から張り切っていた。
キッチンに入ると、ダイニングテーブルには豪華な料理がたくさん並んでいた。
「ただいま。うわ〜いい匂い!美味しそ〜」
「おかえり〜。お父さんもうすぐ帰ってくるって。
侑芽ちゃん、プレゼントの用意はできた?」
「うん!もうラッピングもしてあるし、準備万端だよ!」
侑芽からのプレゼントは、自作したフェルト製のポーチだ。
お父さんが前に、かばんの中がすぐぐちゃぐちゃになるので、必要な物が出てこなくて困ると言っていた。そこで、このポーチに入れて整理してもらおうという訳だ。
図書館で借りたハンドメイドの本を見て作った力作で、小分けのポケットやファスナーもつけており、我ながら上手くできたと自負している。
「お母さんは?ネクタイ良いの買えた?」
「大丈夫。今日のお昼に昨日行くはずだったお店に行って、バッチリ良いの選んできたわよ!」
お母さんが侑芽に親指を立ててサムズアップのサインを送ってくる。ついでに侑芽も送り返しておいた。
侑芽が手洗いと着替えを済まして席に着くと、丁度お父さんが帰ってきて、お誕生日会がスタートした。
簡単に誕生日会の様子を説明すると、お父さんは会の始まりから終わりまで泣いて喜んでいた。
特にプレゼントを渡す時には、メガネを外して涙を拭いながら、
「侑芽ちゃん、こんなに上手にお裁縫できるようになったんだなぁ。お父さんのためにありがとう。
お母さんも、パート増やして頑張ってくれたんだよね。すごく素敵なネクタイだよ。
2人ともありがとう。お父さん、大切にするよ」
そう言って神棚に飾ろうとするので、飾らずに使ってくれと慌ててお母さんと一緒に説得した。
大体毎年、誰の誕生日会の時もこんな風に盛大に行われるのが越智家だ。もちろんレムも含めて。
お母さんがお父さんにネクタイをつけてあげながら、楽しそうにラブラブしている間に、侑芽はリビングにいるレムのところに行った。
レムはゲージの中でご飯をもりもり食べている。
(今日はレムもいつもよりスペシャルなフードだ)
侑芽に気付くと、顔を上げてクゥンと鳴いた。
「レム、美味しい?良かったね。ご飯食べ終わったら遊ぼうね。
・・・ねぇレム。私、慎也さんのアリバイ崩せたと思う。それだけじゃなくて、他のことも色々、多分分かったような気がするんだ」
レムは不思議そうに侑芽を見つめる。
「杏奈さん、きっと大丈夫だと思う。
そんな訳だから、今夜もよろしくね。謎解きから始めるよ」
侑芽は恋人がいたことはない。彼氏のことで悩む杏奈の気持ちを完全に理解することはできないかもしれない。けど、この推理が正しければ慎也と杏奈はきっと大丈夫だと思った。
いくら自分の夢の中の事件とはいえ、依頼人には真摯に向き合いたい。
今夜の謎解きで、このカップルが良い方向に行けるよう、手助けができたら良いなと侑芽は思った。