探偵は夢中で捜査中
侑芽が就寝して目を開けると、探偵事務所の前にいた。
足早に中に入り、レムに声を掛ける。
「レム!杏奈さんが書いてくれた電話番号の用紙出してくれる?絵空駅に来てもらうから」
そう言いながらカレンダーと時計を確認する。
日めくりカレンダーは依頼日から2日後の月曜日になっており、時間は朝の7時だった。
「分かりました。いよいよ謎解きですね」
レムが差し出した用紙を受け取ると、侑芽は頷く。
しかし、侑芽はすぐには杏奈に掛けずに、前にもらった時刻表に記載してある、絵空駅の事務所に電話を掛けた。
「もしもし。突然すみません。私、探偵の越智という者ですが・・・。あぁ、あの時の!はい、一昨日はありがとうございました。あの、実は確認したいことがあってお電話したのですが・・・」
電話にはこの時刻表をくれた駅員が出た。
杏奈が確認したいことを話し、返事を待つ。
レムはその侑芽の周りをウロウロと周る。レムは耳が良いので漏れ聞こえる声で会話の内容が分かるのだ。
「はい、はい。・・・やはりそうですか。ありがとうございました。おかげでこちらの事件は解決しました。では、失礼致します」
侑芽は一度受話器を置き、今度は杏奈に掛ける。
2コールほどで相手は電話に出た。
「もしもし。水民杏奈さんのお電話ですか?、探偵の越智です。朝早くからすみません。
はい、えぇ。ご依頼の謎が解けました。今から絵空駅に来れますでしようか?
・・・はい。はい。分かりました。では慎也さんが下車した7時50分に1番線のホームでお待ちしています」
侑芽は受話器を置いて、レムを振り返る。
「杏奈さん、すぐに来てくれるって。私たちも行こう」
「はい。・・・侑芽ちゃん、さっきアリバイ以外のことも色々分かったと言っていましたが、それは慎也さんがなぜこのアリバイを主張したのか。それに繋がっていますか?」
レムが心配そうに尋ねる。
「うん。でもね、レムが心配するようなことはないと思うよ。
と言っても、こればっかりは自分の勘を信じるしかないんだけどね」
そう言うと、電車の時間に遅れないように2人は急いで事務所を出た。
##########
7時45分。侑芽とレムは絵空駅の1番線ホームにいた。
さすが平日の通勤通学の時間帯なだけあって、前回来た時よりもかなり混雑している。
お客さんの邪魔にならないように端の方にいると、杏奈が階段を上がってくるのが見えた。
「越智先生!お待たせしてすみません。
・・・慎也のアリバイが崩れたって本当ですか」
杏奈も急いで来たのだろう、息が上がっている。
胸に手を当てて深呼吸をしながら、呼吸を整えようとしていた。
「杏奈さん、朝早くからすみません。
はい、崩せました。もうすぐここから見えると思いますよ」
侑芽が3番線のホームの方向を指差す。
3人で見ていると、7時47分に駅のアナウンスが流れた。
『まもなく、3番線に7時51分発、夢中行き快速急行が7両で参ります。黄色い線の内側までお下がり下さい。夢中駅へはこの電車が先に参ります。
なお、この電車は車両連結のため、4分ほど停車します。発車までしばらくお待ち下さい』
これに慎也は乗り換えたのだ。
3番線に入った電車のドアが開き、人がどっと降りてくるのが見える。
続け様にアナウンスが響く。
『まもなく、2番線に7時52分発、通勤特急が参ります。黄色い線の内側までお下がりください』
「あの越智先生、本当にこうして見ていればトリックが分かるんですか?私には今のところ何も・・・」
「まぁまぁ、見ててください」
不思議そうに侑芽を見つめる杏奈を制し、再びホームに目を戻す。
2番線に到着した通勤特急は、侑芽たちのいる1番線側のドアが開き、人がどっと降りてくる。
何も変わった所はないと杏奈が首を傾げた時、この2番線の通勤特急に変化があった。
3番線側のドアが開いたのだ。乗客は待っていたかのようにそちら側からも降車する。
「え!あっち側のドアも開いた!?」
今、2番線の電車は両側の扉が開いている。ここのホームから3番線の電車がよく見える。
どうやら杏奈も気づいたらしい。侑芽はニヤリと笑う。
そしてその考えを裏付けるアナウンスが響いた。
『まもなく、1番線に、当駅止まりの電車が参ります。ご乗車にならないようお願いします。
3番線快速急行にお乗り換えの方は、2番線通勤特急の車内を通り抜けてお乗り換え下さい』
1番線に電車が入り、扉が開く。
時刻は7時50分きっかり。降りた乗客は慣れた様子で2番線の電車を通り抜けて、3番線の電車に乗り換える。ものの数秒だ。
中には売店で手早くドリンクを買っていく人もいた。
発車のベルが鳴り、夢中行きの電車は乗客を乗せて走り出した。
「難しく考えすぎていたんです。真実は、ちょっとした乗り換えのコツだったんですね。
私たちが前回来た時は、土日ダイヤだったので気付かなかったんです。
駅員さんたちも、この乗り換え方法はいつも見慣れた光景だから不審に思わなかったんですよ」
拍子抜けした様子の杏奈は、ゆっくりと近くのベンチに座った。
「そっか。私、普段電車に乗らないので全然思いつきませんでした・・・」
侑芽とレムも杏奈の隣に腰掛けた。
「まぁ、かくゆう私も分からなかったんですけどね。
でもこれで慎也さんのアリバイは崩れました。
あの日あの時間に、慎也さんが夢中駅に行くことは可能です」
侑芽が断言すると、依頼が解決したというのに、杏奈の表情は複雑だった。
「・・・そうですね。越智先生、レムさん、調べて頂き、本当にありがとうございました。私1人では到底考えもできませんでした」
なんとか笑顔を作ろうとしているが、瞳が本心を雄弁に語っている。
もしかしたら、杏奈はアリバイが崩れなければいいと思っていたのかもしれない。乗り換えが不可能だと分かれば、あの日、自分が見た慎也は人違いだったと思えるから。
見間違えなんてしていないと、本当は分かっていたとしても。
「杏奈さん、杏奈さんの本当に知りたかったことは別にありますよね?慎也さんになぜ嘘をついたのか確認しに行かなくて良いんですか?」
「・・・ダメですね私。越智先生があんなに励ましてくださったのに。まだ確認するのが怖いとか思っているんです。ウジウジしてて嫌になります」
苦笑する杏奈だったが、しばらく逡巡し、意を決したように突然立ち上がった。
「ええい!いけませんね、こんなんじゃ。私、今から慎也に会いに行ってきます。この時間なら大学にいると思うし。こうなったら当たって砕けろです!」
杏奈は拳を握り、気合を入れた。
事務所に尋ねて来た時とは違い、彼女の中で何かが変わったようだった。
「その意気ですよ!頑張ってください杏奈さん」
侑芽とレムも立ち上がって、エールを送る。
「ありがとうございます。では、行ってきます!」
幻想駅行きの電車に乗り込む杏奈を見送ってから、侑芽は正面を向いたまま、背後のレムに尋ねる。
「レム、杏奈さんの匂い、覚えた?」
「えぇ、もちろんですよ。追跡もできます」
振り返って、レムと目を合わせる。2人はいたずらっぽく、にんまりと笑った。
「よし、じゃあ、私たちも行こう!杏奈さん達の邪魔をしないようにこっそりね」
そう言うと、杏奈の乗った電車から一本後の電車に乗り込む。
この事件は、ある意味ここからが本番だと言っても良い気がした。
足早に中に入り、レムに声を掛ける。
「レム!杏奈さんが書いてくれた電話番号の用紙出してくれる?絵空駅に来てもらうから」
そう言いながらカレンダーと時計を確認する。
日めくりカレンダーは依頼日から2日後の月曜日になっており、時間は朝の7時だった。
「分かりました。いよいよ謎解きですね」
レムが差し出した用紙を受け取ると、侑芽は頷く。
しかし、侑芽はすぐには杏奈に掛けずに、前にもらった時刻表に記載してある、絵空駅の事務所に電話を掛けた。
「もしもし。突然すみません。私、探偵の越智という者ですが・・・。あぁ、あの時の!はい、一昨日はありがとうございました。あの、実は確認したいことがあってお電話したのですが・・・」
電話にはこの時刻表をくれた駅員が出た。
杏奈が確認したいことを話し、返事を待つ。
レムはその侑芽の周りをウロウロと周る。レムは耳が良いので漏れ聞こえる声で会話の内容が分かるのだ。
「はい、はい。・・・やはりそうですか。ありがとうございました。おかげでこちらの事件は解決しました。では、失礼致します」
侑芽は一度受話器を置き、今度は杏奈に掛ける。
2コールほどで相手は電話に出た。
「もしもし。水民杏奈さんのお電話ですか?、探偵の越智です。朝早くからすみません。
はい、えぇ。ご依頼の謎が解けました。今から絵空駅に来れますでしようか?
・・・はい。はい。分かりました。では慎也さんが下車した7時50分に1番線のホームでお待ちしています」
侑芽は受話器を置いて、レムを振り返る。
「杏奈さん、すぐに来てくれるって。私たちも行こう」
「はい。・・・侑芽ちゃん、さっきアリバイ以外のことも色々分かったと言っていましたが、それは慎也さんがなぜこのアリバイを主張したのか。それに繋がっていますか?」
レムが心配そうに尋ねる。
「うん。でもね、レムが心配するようなことはないと思うよ。
と言っても、こればっかりは自分の勘を信じるしかないんだけどね」
そう言うと、電車の時間に遅れないように2人は急いで事務所を出た。
##########
7時45分。侑芽とレムは絵空駅の1番線ホームにいた。
さすが平日の通勤通学の時間帯なだけあって、前回来た時よりもかなり混雑している。
お客さんの邪魔にならないように端の方にいると、杏奈が階段を上がってくるのが見えた。
「越智先生!お待たせしてすみません。
・・・慎也のアリバイが崩れたって本当ですか」
杏奈も急いで来たのだろう、息が上がっている。
胸に手を当てて深呼吸をしながら、呼吸を整えようとしていた。
「杏奈さん、朝早くからすみません。
はい、崩せました。もうすぐここから見えると思いますよ」
侑芽が3番線のホームの方向を指差す。
3人で見ていると、7時47分に駅のアナウンスが流れた。
『まもなく、3番線に7時51分発、夢中行き快速急行が7両で参ります。黄色い線の内側までお下がり下さい。夢中駅へはこの電車が先に参ります。
なお、この電車は車両連結のため、4分ほど停車します。発車までしばらくお待ち下さい』
これに慎也は乗り換えたのだ。
3番線に入った電車のドアが開き、人がどっと降りてくるのが見える。
続け様にアナウンスが響く。
『まもなく、2番線に7時52分発、通勤特急が参ります。黄色い線の内側までお下がりください』
「あの越智先生、本当にこうして見ていればトリックが分かるんですか?私には今のところ何も・・・」
「まぁまぁ、見ててください」
不思議そうに侑芽を見つめる杏奈を制し、再びホームに目を戻す。
2番線に到着した通勤特急は、侑芽たちのいる1番線側のドアが開き、人がどっと降りてくる。
何も変わった所はないと杏奈が首を傾げた時、この2番線の通勤特急に変化があった。
3番線側のドアが開いたのだ。乗客は待っていたかのようにそちら側からも降車する。
「え!あっち側のドアも開いた!?」
今、2番線の電車は両側の扉が開いている。ここのホームから3番線の電車がよく見える。
どうやら杏奈も気づいたらしい。侑芽はニヤリと笑う。
そしてその考えを裏付けるアナウンスが響いた。
『まもなく、1番線に、当駅止まりの電車が参ります。ご乗車にならないようお願いします。
3番線快速急行にお乗り換えの方は、2番線通勤特急の車内を通り抜けてお乗り換え下さい』
1番線に電車が入り、扉が開く。
時刻は7時50分きっかり。降りた乗客は慣れた様子で2番線の電車を通り抜けて、3番線の電車に乗り換える。ものの数秒だ。
中には売店で手早くドリンクを買っていく人もいた。
発車のベルが鳴り、夢中行きの電車は乗客を乗せて走り出した。
「難しく考えすぎていたんです。真実は、ちょっとした乗り換えのコツだったんですね。
私たちが前回来た時は、土日ダイヤだったので気付かなかったんです。
駅員さんたちも、この乗り換え方法はいつも見慣れた光景だから不審に思わなかったんですよ」
拍子抜けした様子の杏奈は、ゆっくりと近くのベンチに座った。
「そっか。私、普段電車に乗らないので全然思いつきませんでした・・・」
侑芽とレムも杏奈の隣に腰掛けた。
「まぁ、かくゆう私も分からなかったんですけどね。
でもこれで慎也さんのアリバイは崩れました。
あの日あの時間に、慎也さんが夢中駅に行くことは可能です」
侑芽が断言すると、依頼が解決したというのに、杏奈の表情は複雑だった。
「・・・そうですね。越智先生、レムさん、調べて頂き、本当にありがとうございました。私1人では到底考えもできませんでした」
なんとか笑顔を作ろうとしているが、瞳が本心を雄弁に語っている。
もしかしたら、杏奈はアリバイが崩れなければいいと思っていたのかもしれない。乗り換えが不可能だと分かれば、あの日、自分が見た慎也は人違いだったと思えるから。
見間違えなんてしていないと、本当は分かっていたとしても。
「杏奈さん、杏奈さんの本当に知りたかったことは別にありますよね?慎也さんになぜ嘘をついたのか確認しに行かなくて良いんですか?」
「・・・ダメですね私。越智先生があんなに励ましてくださったのに。まだ確認するのが怖いとか思っているんです。ウジウジしてて嫌になります」
苦笑する杏奈だったが、しばらく逡巡し、意を決したように突然立ち上がった。
「ええい!いけませんね、こんなんじゃ。私、今から慎也に会いに行ってきます。この時間なら大学にいると思うし。こうなったら当たって砕けろです!」
杏奈は拳を握り、気合を入れた。
事務所に尋ねて来た時とは違い、彼女の中で何かが変わったようだった。
「その意気ですよ!頑張ってください杏奈さん」
侑芽とレムも立ち上がって、エールを送る。
「ありがとうございます。では、行ってきます!」
幻想駅行きの電車に乗り込む杏奈を見送ってから、侑芽は正面を向いたまま、背後のレムに尋ねる。
「レム、杏奈さんの匂い、覚えた?」
「えぇ、もちろんですよ。追跡もできます」
振り返って、レムと目を合わせる。2人はいたずらっぽく、にんまりと笑った。
「よし、じゃあ、私たちも行こう!杏奈さん達の邪魔をしないようにこっそりね」
そう言うと、杏奈の乗った電車から一本後の電車に乗り込む。
この事件は、ある意味ここからが本番だと言っても良い気がした。