極上御曹司と最愛花嫁の幸せな結婚~余命0年の君を、生涯愛し抜く~
伯父はどこまでも正直者だった。だが下手にフォローをされるよりは、ずっとマシだったかもしれない。

俺の軽率な言動のせいで、彼女は死んでしまうところだった。記憶が消えた程度でよかったのかもしれない。

一緒に花冠を編んだこと、車椅子で中庭に行ったこと、夜の屋上と星空。手を繋いで歩き回った廊下。図鑑。トランプ。オセロ。昼食時、おいしいからと言ってひと口くれたほうとうの味。

思い出が蘇ってきて、目の奥がツンと痛くなる。

彼女に作ってあげた思い出を俺だけ覚えていたって意味がないのに。



この日を最後に、伯父の勤める研究棟や病棟には行かなくなってしまった。

彼女が嫌になったわけじゃない。ただ怖かった。

自分の言動が彼女を傷つけ、命を奪うと知ってしまった。

もう二度と彼女には会わない、そんな責任の取り方しか当時の俺は思いつかなかった。




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運転席で携帯端末を耳に当てながら、かつて非力だった自分を思い返し、手をきゅっと握り込む。

「覚えているよ。俺のせいで彼女は生死の境をさ迷い、記憶を失った」

『君のせいだなんて言うつもりは――』

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