極上御曹司と最愛花嫁の幸せな結婚~余命0年の君を、生涯愛し抜く~
祇堂さんは漆器の丸いれんげでスープをすくいとり、上品に口に運ぶ。

「冬じゃなくても、ほうとうはおいしいだろ?」

「本当ですね。体に染み渡って、整う感じがします」

庭が見える和室や囲炉裏の跡も風情があって素敵だ。都会の日常にはない、ゆったりとした時間が流れている。

この空間自体がここまで足を運んだご褒美なのだろう。

「来てよかったです。本当に」

得がたい経験だと思う。頷く私を見て、彼も満足そうに目を細める。

「俺も。君を誘ってよかった」

ゆっくりとほうとうを味わったあと、私たちは店を出て宿泊する旅館に向かった。

ちょうど三時、チェックインの時間だ。

連れていってくれたのは、老舗の高級温泉旅館。

コテージのように一部屋一部屋が独立して広々としている。客室ごとに露天風呂もあるそうだ。

「スタッフの方が貴賓室っておっしゃってましたけど……すごく高級なお部屋ですよね?」

ホテルでいうところのスイートルームだろう。

彼は「知り合いの伝手で、ね」とにっこり笑う。さすが社長だ、伝手のスケールが段違い。

「すごい広さ……」

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