極上御曹司と最愛花嫁の幸せな結婚~余命0年の君を、生涯愛し抜く~
「ふたりきりのときは、名前で呼んで」

「名前って……」

翔琉さん、と?

戸惑う私に笑みをこぼし、彼は部屋を出ていく。

「翔琉さん、か……」

冷えたミネラルウォーターをグラスに注ぎながら、誰もいない空間に向かって声に出して練習してみる。

名前を呼んで彼が振り向いてくれたらどんなに嬉しいだろう。

着実に縮まる距離。燃え上がる恋心。でも――。

「彼とお付き合いは……できない」

こんな隠し事まみれの私じゃあ、彼の隣に並ぶのに相応しくない。

そう理解していたはずなのに、さっきのキスはあまりにも突然すぎて、自覚したときには絆されていた。

「拒まなきゃいけなかったのに……」

あの情熱的で真摯な瞳に見つめられると、彼のことしか考えられなくなってしまう。

次にされても、拒めるかどうか。

「っ、なに弱気なことを言っているの」

拒むのは彼のためでもあるのだ。

「もしも私が、普通の女の子だったら……」

彼の気持ちに堂々と答えられただろうか。恋人になって、幸せいっぱいの日々を送れたのだろうか。

何度か死の危険を乗り越えて、生きているだけで幸せだと、そう思っていたけれど。

< 93 / 267 >

この作品をシェア

pagetop