冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした
「向日葵、さん?」
「あ、ごめんごめん。駄犬の駆除方法を考えてたの」
「いえいえダメですよ
初めて私を連れ出してくれた恩人です」
「恩人って、大袈裟よね」
「だから静かにフェイドアウトさせてくださいね」
「だって」
「ん?」
「だって」
「向日葵さん?」
「花恋がショボショボなのはどう考えても犬の所為じゃないっ」
向日葵さんの悲痛な表情を見て逆に心が温かくなった
だからこそ、これ以上の心配はかけたくない
「ありがとうございます向日葵さん
私のショボショボは本の所為で
もう二度と読まないので平気です
私としては向日葵さんという優しい友達が居てくれるだけで凄く幸せですよ」
「モォォォォ。可愛いんだからっ」
一度頬を膨らませたあと、後ろの席から抱きついてきた向日葵さんは
「じゃあ駄犬よりカッコいい彼氏ができるように色々頑張らなきゃね」
ギュウギュウと締め付けてくるから
本気で死ぬかと白旗をあげた
━━━昼休み
花壇の水やりをする間
スマホと睨めっこの向日葵さんにそっと近づいた
「スマホってどうですか?」
「ワッ!ビックリしたぁ
スマホがどうってどういうこと?」
「私、携帯電話を持ったことがなくて」
「・・・・・・よね」
随分間があったけど、やっぱり珍しいことなんだろうか
「パソコンを持ち歩いているみたいなものよ」
「それって凄いじゃないですかっ」
「おっ、食いついたわね
パソコンはあんなに使えるんだから
スマホなんて直ぐ使いこなせると思うけどね」
「前向きに考えてみようと思ってるんです」
「早く決めてね。花恋とSNSでも繋がりたいから」
「はい」
担任の先生から就職斡旋の際に携帯電話でも良いから直接繋がる連絡先やメールアドレスが必要になると説明を受けた
夏休み前には応募が始まるから
悩んでもいられなくなった
「携帯会社ごとのプランとか
格安スマホも流行ってるから、兄に聞いておくね」
「助かります」
「ねぇ花恋」
「はい?」
「次の土曜日家においでよ」
「え、良いんですか?」
「当たり前じゃない友達なんだもの」
「フフ、嬉しいです」
「それまでに兄に調べるように伝えるね」
「ありがとうございます」
最初の印象からは想像できないほど
向日葵さんは人間味に溢れている
美人で面白くて、たまに毒舌で
コロコロと表情を変えるから見るたび楽しい
こんなに仲良くなれるとは思っていなくて
Dクラスになった不安な気持ちは吹き飛んでしまっていた