冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした
家族



━━━夕方


武家屋敷に戻った途端にハッチのご両親に拐われた


「実は二ノ組から連絡があってな」


そう切り出したハッチのお父さんの顔が僅かに曇ったことに何となく予測が立った


「父のことですよね」


もしかしたら、ハッチのご両親にも何か言ったのかもしれない


「先に聞いてしまって申し訳ない」


「いいえ、私からも話すつもりでした」


「そうか。
花恋ちゃんとは、家に来た日から仲良くしたいと皆んなで話してるし
永飛と同じように大切に思ってるんだ」


中央図書館に行った日のことだ


「ありがとうございます」


「だから色々考えずに、家族だと思って気楽に過ごすと良い」


「ありがとうございます。お世話になります」


丁寧に頭を下げるとハッチのご両親は優しく頷いてくれたけれど
“色々考えずに”は間違いなく父からの牽制が入っている
それを曖昧にしてくれたハッチのお父さんに頭が下がった


「花恋ちゃん熱は下がったのかな」


私の隣に来てくれたハッチのお母さんはオデコに手を当てたあと手首の脈もとった


「測ってはいないんですけど微熱だったと思うんです
寝ている間にハッチが解熱剤を飲ませてくれたので、起きた時には楽になっていました」


「処方されたお薬も飲めていないし、湿布も貼り替えてないでしょう?
夏だからお風呂にだって入りたいはずなのに
永飛が暴走しちゃってごめんね」


「大丈夫です」


「これから一緒に入ろう」


「お風呂ですか?」


「私とじゃ恥ずかしい?」


「それは全然平気です」


こういう時、望みの家での生活が役に立つ


「じゃあギプスにガードつけようね」


「はい」


私のことを気遣ってくれるハッチのお母さんは保健師さんだと聞いた通り

物腰も表情も雰囲気全てが柔らかくて安心感がある


「優羽ちゃんが花恋ちゃんにって服を持って来てくれたから、永飛の部屋に運んでるの
下着もパジャマも入ってるからお風呂で待ち合わせしようね」


「ありがとうございます」


皆んなの口から何度も登場する“優羽ちゃん”に直接会ってお礼を言わなきゃバチが当たりそうだ


立ち上がってもう一度お礼を言う

部屋を出ようとハッチのお母さんが扉を開けた先に不機嫌な表情のハッチが立っていた


「遅せぇ」


「ごめんなさい」


「花恋に言ったんじゃねぇぞ」


ご両親に向けて吠えたハッチも


「ほらほら永飛怒らない怒らない
母さんねこれから花恋ちゃんとお風呂なの
優羽ちゃんからの着替え持ったらお風呂に花恋ちゃんを送ってね」


お母さんに効果はなかったみたい


「チッ」


サッと手を繋いで長い廊下を歩く
時折すれ違う仁義なき面々はハッチが通り過ぎるまで頭を下げていて


なんだかちょっと居心地が悪い


「ん?」


それもやっぱり気付かれて


「なんでもないよ?、痛っ」


誤魔化すように繋いだ手を振ってみたら肩に痛みが走った


トホホ











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