ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


今日は入院している水樹の所へお見舞いに行く日だ。

康太先生が水樹に怪我を負わせてしまってから約半年──先生は責任を感じ、事故を起こしてからほぼ毎日、仕事終わりに水樹の見舞いへ行っている。
その為、桜葉との逢う時間が徐々に減っていき、今ではメッセージのやり取りや電話なども簡単なやり取り程度までになってしまっていた。

(──でもここ最近、電話やメッセージの回数もめっきり減っちゃったし……今の私達って…彼氏彼女って言える状況…なのかな)

逢える時間や電話などが減り、本当は寂しい気持ちや不安が溢れてしまいそうなのに、必死でそれを隠しているのは自分にも責任があると桜葉が思っているからだ。


あの日、先生と一緒にいたいなどと言わなければ──


それに、先生がとても責任感の強い人だということは知っている──だからこんな不安な状況でも桜葉は先生を信じ、もう少し時間を置いて落ち着いたらきっとまた元通りになると信じている……信じたいのだ。


バスに乗って揺られること約三十分、水樹の入院している病院前で降りるのはこれでもう何度目のことだろうか。

事故にあってからしばらくはまだ安静にしていなければならず、病室に入っても水樹の簡単なお世話を少しばかりするぐらいだった。
けれど半年経った今では治療経過も良好で、お見舞いに行けば普通に会話できるところまで回復してきている。
それでもこれから苦しいリハビリが水樹に待っているのかと考えると、桜葉は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

そんな何とも払拭できない気持ちが残っているのは、自分がまだ水樹にちゃんと謝っていないこと、康太先生との関係やあの日に起きてしまったことの説明もしていないからだ。

(……今日こそはちゃんと、水樹に事の経緯(いきさつ)を説明して謝らなきゃ)

桜葉は今日の見舞い時に全てを話そうと決心していたのである。




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