ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする

19.繋がり〜久藤の過去




今から思えば久藤は京一郎の付き添いで見合いに同行し、それから香也子と絡んでいくうちに少しずつ様子が変わっていった。





「──では婚姻は一週間後、式は三ヶ月後で宜しいでしょうか、一ノ瀬社長」

見合いが終わったばかり。
京一郎と香也子は向かい合うまま特に話すこともなく、婚姻の話しは京一郎と一ノ瀬社長との間で勝手に進められていく。
香也子の気持ちなどこの結婚には全く関係がないと言わんばかりに。

「ああ、蓮見社長。……ただ例のレストラン事業は私共一ノ瀬が社運をかけて進めているプロジェクト。第一号店に相応しい物件を是非優先的に確約を取らせて頂きたいものだが?」

「もちろんですっ。
私と香也子さんが結婚すれば、私達蓮見グループと一ノ瀬グループは親族になり強固な関係を築けるのですから。──強いては、私共の新しい事業にもご協力頂ければと」

「無論じゃ、支援はする」


(──本人を目の前に嫌な話だ。
言うなればあの香也子と言うお嬢様は彼等の格好のエサというわけだ……)

密約──結局汚い取引というのは裏でこっそり行われる。
どこの会社も自分の利益や繁栄にしか興味がない。
誰が犠牲になろうとも(いと)わない世界なのだ。

(今、目の前にいる彼女もすぐにこの男の餌食となる……)


ここは都内でも一二を争う格式高い高級ホテル内の一個室。
約十五畳ほどの広さがある和室中央には重厚感漂う座卓を挟み、一方には一ノ瀬総合商社の社長、一ノ瀬留吉とその娘、香也子 ──もう一方には蓮見京一郎が座っていた。

そして、京一郎の秘書である久藤は和室の角に離れて座り、まるで己の存在を消すかのように微動だにしない。
ただ視線の先ではふと香也子の姿を捉えていた。

(……あのお嬢様、さっきからずっと下を向いたままで無表情──自分のことを勝手に周りに決められて……己の意志はないのだろうか?)

視線の先の香也子は、艶やかな赤色の着物を纏っておりそれには色鮮やかな大きな花が所々に刺繍されていた、髪はアップにまとめている。
顔には濃くも薄くもない化粧が施され、全体的に上品な仕様に仕上がっている。
姿勢良く正座をし美しい見た目だが、その顔は無表情でずっと俯いたまま。




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