ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


ストーカー事件の時も思ったが、間近で見る岳の顔は破壊力が半端ない。
イケメンで顔面偏差値がとても高いのだと再認識させられる。

そんな桁外れの顔面を近距離で目にしてはとても恥ずかしくてすぐ目を逸らしてしまいそうだが、桜葉は何故だか岳から目を離せずにいた。
突然の桜葉の行動に岳も目を丸くして驚いている。


「──な、鳴宮、さん?」

岳の少し戸惑った問いかけで、ハッと我にかえった桜葉は髪に伸ばした手を慌てて引っ込めた。
そして自分の考え無しな行動を覆い隠すかのようにひきつった笑みを浮かべる。

「ハ、ハハ……あ、こ、こういう細かい雨って思いの外、ぬ、濡れてしまうんですよねっ。
……って、いえ、あの、院瀬見さんの髪が濡れてしまっていたのでつい…突然ごめんなさいっ」

恥ずかしいという思いから、桜葉はよくもわからない内容の言葉を次々と早口で発してしまう。

「あ、いや俺は」

「──あ、そ、そうだっ院瀬見さん、聞いてください。
今度、社員食堂での新メニューコンペに先輩が出ることになって、私もヘルプとしてそれに参加できることになったんですっ!」

彼女の一挙一動に深い意味なんかないのだと思いながらも、岳の心はその行動一つで揺れ動かされてしまうということを桜葉は知る由もない。
今だって驚きはしたが、桜葉の方から近付いてくれたことに嬉しさを感じているのだ。

桜葉の無邪気な表情を前に、気付かれないほどの小さな溜め息を漏らした岳は即座にいつもと変わらない優しい表情でその報告に応えてきた。

「へぇー、それはすごいね。鳴宮さんもサポート頑張らなきゃね」

「はいっ。
先輩の力になれるよう私も色々と力になれることがあればいいんですが……」

「……そう、だね」

嬉しそうに話す桜葉の言葉に反して岳の心は少しモヤッとした感情が渦巻く。

(……彼女の口から出るその “先輩”って、一体誰なんだ?)



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