ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
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桜葉と別れ部署へと戻った岳は、自席に座ったと同時に深い溜め息を床に落とす。
椅子にもたれ掛かり暫しの間、つい今しがたの行動を反省するため自分の殻に閉じ籠ってしまう。
(──俺は、鳴宮さん相手だとどうしていつもこう、変な態度を取ってしまうんだ。それに先輩というのが男でも女でも別にどっちでも……)
── 嫉妬心と独占欲……
そのような名のついた感情に振り回させる行動は岳にとってこれで三回目。
桜葉に叩かれた時とストーカー事件の時、それに今日──
冷静沈着で何事も考え抜いてから慎重に行動へと移す──そのような性分があったからこそ最短で部長職にまで上り詰めてきたのだ。
岳はふと自分の髪を咄嗟に拭いてくれた桜葉の顔が頭に浮かんできた。
あんなに間近で見る桜葉の顔は二回目──あの時みたいに咄嗟に抱き寄せてしまうところだった。
(……先日も感じたが彼女は何か…良い、香りがするな…)
「院瀬見部長っ」
突如、自分の名前が呼ばれたことで頭の中の甘い映像は一瞬にして弾けとんでいってしまった。
冷静な様子で、もたれ掛かる椅子から背中を浮かせ呼んだ男性部下の方へと視線を移す──が、内心はバクバクと心臓が暴れ出し動揺しまくりだ。
「た、竹内。なんだ?」
「先程、社長秘書の方からお電話がありまして。部長が戻られましたら社長室へ来るように、との伝言を預かりました」
その言葉を聞いた途端、岳の表情は固くなる。
「そうか、わかった」
「……あの、それより部長。どこかお加減でも悪いのでは?」
「ん? 別にどこも異常ないが」
「あ、それならいいんですが……顔が、とても赤かったので熱でもあるんじゃないかと」
部下に指摘されるまで自分でも気づかないうちに顔が火照っていたことに再度動揺する。
「あー、さっき走ってきたからかなっ!」
その、動揺が入り混じった一喝で何とか部下を納得させると今度は、部署の入り口付近で何やら岳をニヤニヤと見つめる男性が目に入る。
岳はまたもや深い溜め息を吐いた。