ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


「今度のパーティーは会社関係者のみならず、ビルに入るファッション系店舗の従業員らも多数参加するんだ。
それに、残念ながら今回のHASUMIビルはファッションを中心とした仕様で飲食店がほとんど入っていない。
そしてそのビルがうちの本社にも近いとなれば、そこの従業員達も社員食堂を利用する確率が高くなる。
だから今回の企画は顧客獲得のいいアピールになるんじゃないかな」

(…そっか、そうすればビルで働いているスタッフさん達が、周りの飲食店よりも安めに提供しているうちの社員食堂へ来てくれるかもしれない。そしたら売り上げも……)

「千沙さん、これってすごいことですよっ! もし千沙さんの考えたメニューが選ばれたら、それを皆さんに知ってもらえるいい機会にもなるし、そこからまた他の人にも口コミが広がって──」

「あー、でももう一人のメニューの方が選ばれるっていうこともあるから、水口さんにとっては結構リスキーなことでもあるんだけどね」

岳の提案を聞いてからどこか心ここにあらず状態の千沙だったが、覚悟を決めたかのように唇をギュッと結ぶと岳に一言、「ありがとうございます! この企画が通った際は是非参加させてください!」とお辞儀をしたのである。

「はい、こちらこそ」

話しが一応まとまった所で場の雰囲気が一気にお祝いムードへと変わった時、千沙の飲むお酒のスピードも再度上がっていく。

「水口先輩、それ以上飲むとヤバいっすよ」

「潮、うるさぁーい! 今の私は機嫌がいいのぉ~」

(はぁ~でも良かったぁ、なんか自分のことのように嬉しいっ。私も千沙さんの力になれるようがんばら──)

ブブッブブッ──

そんなお祝いムードの中、桜葉のスマホから突然震え響く着信バイブ。
それに気付いた桜葉がふとスマホの画面を見た瞬間、自分の心臓が途端に凍りついていくのがわかった。




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