ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
電話を切った途端、一気に脱力感に襲われ無意識に大きな溜め息を吐いてしまった桜葉。
その溜め息を全部出し切った所でゆっくり壁に寄りかかり天井を見上げた桜葉は思ってしまう。
一年経った今でも、心臓がえぐられるようなあの複雑な想いが今だに健在だったことに自分でも驚いてしまった。
(私…ちゃんと話せてたかな、水樹に変な態度、取ってなかったかな?
── はぁ……今だにこんな虚しい気持ちになるなんて…… いつになったらちゃんと心からおめでとう……って言えるんだろう)
自分はなんて心の狭い人間なのだと、諦めの悪い人間なのだと改めて気付かされる。
そんな自分がほとほと嫌になってしまうのだ──
「鳴宮、さん?」
突如として声をかけてきたその人物が視界に入った瞬間、桜葉の負の感情がパンッと弾け飛んだ気がした。
何の心構えもないまま、突然自分の名前が呼ばれたことに驚いた桜葉はその拍子に持っていたスマホを床へと落としてしまう。
驚きの余り、心臓が激しく鼓動を打つ度にさっきまでモヤモヤしていた感情が吹き飛んでいくようだった。
「……あ、び、っくり、しました…院瀬見さん」
「あー…突然声かけて驚かせたね、ごめん」
岳の足元まで滑っていったスマホを彼は拾い上げながら直ぐ様、桜葉の元へと近寄っていった。
「はい、これ。…電話はもう終わったの?」
「ありがとうございます。…はい、もう終わりました。あ、院瀬見さんはどうして……ん、あれ?」
その時、桜葉は何かに気がついた。
岳から手渡されたスマホと一緒に何か小さな紙切れが添えられていたのである。
「あ、あの…これって」
二つに折り畳んだその紙切れを開いてみると、書きなぐった字で一つのアドレスらしきものが書かれていたのだった。
「鳴宮さんの様子がいつもと違うように思えたから、気になって様子を見にきたんだ。──なんか、電話が鳴っていたとき表情が暗かったように見えて」
「えっ、す…すみません、なんか心配をお掛けしたみたいで……あ、でももう大丈夫ですっ! やっぱり少し酔ってたようで顔に出ちゃってたのかもしれないですね……で、あの、これは」
渡された紙切れの存在を再度確認しようとした桜葉の言葉に岳は少し照れながらも辿々しく会話を続けてくる。
「えー、と……それは、あの──どさくさ紛れで悪いんだけど、それは俺のライ○アドレス、で、、、
あの、さ…別にいつでもいいんだけど、なんか話したいことでも悩んでることでもあったら、俺で良ければ話しだけでも聞くし。
……って、あー、いや、必要なければ捨ててしまっても別に──」
ピコンッ