ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする
桜葉の視線に目も合わせられず、あさっての方向ばかり向いてしまっている岳は柄にもなく動揺を隠せない。
暑くもないのにじんわりと嫌な汗までもが滲み出てくる始末。
そんな、なんとも彼らしくない初心な行動を取ってしまっていた時のこと── 突然、岳のスマホから通知音が鳴り響いたのだ。
岳は慌ててスマホを手に取りそれを確認する。
するとそこには──
“鳴宮です。ありがとうございます”
──と、書かれた桜葉からのライ○メッセージが映し出されていたのだ。
クールな目元が大きく見開き、唖然とした様子を見せる岳は急いで桜葉のほうへと視線を向ける。
「え、っと…アドレス、ありがとうございます。
早速あの、メッセージを送ってみたんですが……これ、私のアドレスです。こちらこそ、宜しくお願いしますっ」
気付くといつの間にか岳のアドレスを躊躇なく登録し自分からメッセージを送っていた桜葉。
それは少なくとも岳を信頼している、嫌がられていないのだという証拠なのかもしれない。
でもまさか、こんなにすぐ返信をくれると思っていなかった岳は少しばかり拍子抜けしてしまった──と、同時に先程までの自分の情けない姿が急に恥ずかしくなってきたのだ。
(いやっ……いい大人がライ○交換だけで何緊張してるんだ、かなり恥ずいぞっ俺! ……っていうか以前、既に鳴宮さんのこと抱き寄せてもしまっているというのにっ……と、とにかくここは大人の余裕を見せなければ。少しシンプルな…何か返事にスタンプでも──)
その自分の恥ずかしい行動を修正しようとした反動なのか、岳はよく見もせず訳のわからない変なスタンプを間違って桜葉に送ってしまった。
そのスタンプというのは
“お尻を出して踊る変なおじさん”
ピコンッ
(あっ…!しまっ)
届いたスタンプを見た桜葉の動きが一瞬止まる──が、すかさずプッと抑えていた笑いが一気に吹き出してしまった。
クールで卒がないいつも完璧な岳のイメージと、その変なスタンプとのギャップが何だかとても可笑しかったのだ。