ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


「プッ! フフッ、こ、このスタンプっ、ブサカワで── お、おかしっ…いつもの院瀬見さんからは全然、想像つかないっ」

「あ、こ、これはっ…! その、神谷が勝手にふざけてこのスタンプを送ってきて……
そ、それよりも鳴宮さんは猫のアイコンなんだねっ! この猫は鳴宮さんが飼っている猫っ?」

冷静に取り繕おうと他の話題を振ってみるが、焦れば焦るほど更に冷や汗が止めどなく噴き出てしまう。
けれどそんな岳の気持ちとは裏腹に桜葉にはその失敗が功を奏したのか、この変なスタンプのおかげで桜葉の暗かった表情が少し柔らいでいくようだった。

『たまにはこのぐらいくだけたスタンプでも送って、部下の奴らでも和ませてみろよな〜』
── と、岳の誕生日の時、購入したスタンプを勝手に贈ってきた神谷に初めて感謝をしたいぐらいだ。

「あ、いえ、この猫は前に話した隣に住むおじいさんの猫で、“とらぞう” って言うんです。……って言ってもメス、なんですけどね。
もしかして院瀬見さんも猫とか、好きだったりします?」

「そうだね…小さい頃、飼っていた時があったから」

「あっ、じゃあまた今度、とらぞうの可愛いショットが撮れたら院瀬見さんにも写真、送ってもいいですか?
この可愛さを誰かと共有したいんですけど、千沙さんは動物にあまり興味がなくて、潮くんもなんか猫アレルギーらしく見るのもちょっと…っていうような感じなので」

そこまで語った時、桜葉は気付いてしまった。
今の口振りではまるで、自分にはその二人しか仲の良い友人がいないんだと、敢えてアピールしてしまったかのように見える……桜葉はそんな小さなことで少し恥ずかしさを感じてしまった。

(今の会話…院瀬見さんに寂しい女だと思われてしまったかも──)

「そうなんだっ。うん、じゃあ楽しみにしているよ」

その勝手な思い込みは桜葉の取り越し苦労だったようだ。
特に気にする様子も見せない岳の態度に桜葉は少しだけ安堵してしまう。
──と、同時に疑問が頭をよぎる。


(ん?…でもなんで私…院瀬見さんが気にしてないことに、ホッとしてるんだろう?)



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