週末だけ犬になる俺を、ポーカーフェイスな妻が溺愛してくる

皇帝は、赤面した

「な、なにごとですか!?」

 急な闖入者に、カレンは慌てて涙を拭き、すっくと立ち上がって振り向いた。

「この中庭は、皇族しか入ってはいけない場所なのですよ」

 カレンは宮廷魔法使いを冷たく睨んだ。すっかりいつもの隙のない氷の皇后の顔に戻っている。
 中庭に入ってきたのは、小柄な男だった。ウォーレンを犬にした宮廷魔法使い(張本人)である。赤毛に怪しげなとんがり帽子を被っているこの魔法使いは、べらぼうに優秀なくせに行動するたびにトラブルを起こす、かなりたちの悪い男だ。
 魔法使いはカレンの冷たい視線に動じることなく、気の抜けた笑みを浮かべた。

「あっ、カレン様も陛下と一緒だったんですね。すみません、僕は陛下に急ぎの用がありまして」
「陛下? ここに陛下はいらっしゃらないけれど……」

 カレンは怪訝そうな顔をする。魔法使いは不思議そうな顔をした。

「えっ、その犬は皇帝陛下ですよね?」

――おい、何を言っているんだお前は! 私が犬になることは秘密にしろと、あれほどいっただろうが!

 命令しようにも、ウォーレンの口から出てきたのは「くんくぅん」という情けない声だった。犬なので仕方ない。
 事情がまったく分からないカレンは眉をひそめる。
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