ギター弾きの天使とデュエットを 両想いのその後 甘々番外編

『キス魔』

 朝一番、目覚めてすぐに「おはよう」の挨拶と共にジャンからのキスが降ってくる。身支度を済ませれば、かわいいとキスされる。出かけるときにも、帰ってきたときにも当たり前のようにキスをする。風呂上りにもまたかわいいと言われてキスをされ、眠る前には「おやすみ」と共にその日の終わりのキスがやってくる。今やそれが二人の日常になっている。


 そして、オフの日の今日、ジャンは朝から数えきれないほどのキスをチャコに与えてくる。今もチャコが好きな曲を鼻歌で歌っていたら、突然横にやってきて、歌うチャコに構わず口づけてきた。


「もう!」
「ん?」


 ジャンは、何をそんなに怒っているんだと言わんばかりに、楽しそうな顔をしてチャコに続きの言葉を促してくる。絶対にわかっているはずなのに、まったく反省する素振りがない。


「突然するのダメ! ……ジャンは、なんでそんなに……キス、するの?」
「なんでって、したいからに決まってんだろ?」


 なんともストレートな理由だ。


「……なんでそんなにしたいの?」
「好きな女にはいつだってキスしたいんだよ」


 またもやストレートに好意を告げられて、チャコは思わず息を飲んだ。求めてもらえるのは嬉しいのだが、チャコには頻度が高すぎる。もう少しお手柔らかにお願いしたいものだ。


「っ。でも、回数が多いよ……」
「いや、俺、これでも我慢してんだけど」
「ええ!?」


 これで我慢しているだなんて信じられない。チャコは大きく驚きの声を上げてしまった。今日だって朝からずっとキスされっぱなしなのだ。


「チャコがいっぱいいっぱいになったら、ちゃんと止めてやってるだろ?」


 確かにもう無理だというところまできたら、やめてくれるが、そこに至るまでにかなりの数のキスを施される。まさかそれ以上を求めていただなんて夢にも思わなかった。


「えぇ……でも、やっぱり多いよ……」
「チャコは俺とキスするの好きじゃない?」


 チャコだってジャンとのキスは好きだ。だが、限度というものがあるだろう。


「それは……好き、だけど……」
「だったら、いいだろ? 俺もチャコとキスするの好きだから」
「でも、いっぱいするのドキドキして無理なんだもん」
「別にドキドキしたっていいじゃん」
「だって、好きすぎて苦しくなる」
「……はあー、お前本当かわいいな」


 ジャンはそう言ってまた口づけてくる。


「もう、だからなんですぐするの?」
「チャコがかわいいからしょうがない」


 ジャンは悪びれる様子もなく、平然とそんなことを言ってくる。これ以上なんて言えばいいのかわからなくて、チャコは涙目になって、ジャンに無言の訴えを送った。

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