白い菫が紫色に染まる時
ディズニーのキャラクターが描かれた筆箱だ。
高校時代の私はもちろんディズニーランドなど行ったことがなかったが、ディズニーストア行く機会があり、その時に買ったのを覚えている。

さらに筆箱の中身を見てみると、折り曲げられているメモ帳がいくつか散乱していた。

「何だろう。これ」

私はその散乱しているメモ帳の一つを手に取り、開いた。
そこに書かれている内容を見た瞬間、これが何なのか思い出した。

これに関する記憶すべてが脳内に流れ込んできた。
私が高校時代に白澄と授業中に先生にバレないようにメッセージを伝えあっていたメモ帳だった。
そして、そこには、男子にしては繊細な細い文字で「がんばれ」と書いてあった。

あの教室での日々が鮮明に思い出される。
今思うと、あれはあれで楽しかったし、幸せな時間だったのかもしれない。
あの時の私は父親の恐怖に押しつぶされそうになって、そこから逃げ出すことしか頭になくて、そのせいで私はこの場所で過ごした全ての時間を捨てようと必死になってしまった。
ここにあった時間の全てを嫌な記憶によって覆いつくし、嫌だったと思い込んでいた。

でも、この白澄とやり取りをしたメモ帳を見ていると、きっと幸せな時間もあったはずなのだ。
それすらも捨てて東京に行ってしまったが・・。

今更、そんなことに気付くとは、自分自身に呆れる。
でも、あの時の私では気づけなかった。
今、心に余裕があるから色んな経験をしたからそう思えるのだろう。

私は懐かしい思い出の品を捨てることにした。
あの時の私の人生も悪いことばかりではなかったのだと教えてくれた。
それで、ここにある物たちの役割は終わったのだ。
白澄との思い出が詰まった物をこれからの人生に持っていくことはできない。

ここで別れを選ぶべきだ。これで、本当に私は自分の人生を自由に歩けるような気がした。
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