白い菫が紫色に染まる時
彼の言葉はあまりにも唐突だった。
突拍子もない言葉だったけれど、私は心の中で納得がいっていた。

あの場所に戻って、過去に向き合った時に、そうだったことに薄々気付いてはいたのだ。
彼に改めて言葉にされて。
口に出されて、私は、やはりそうだったのだと確信に変わった。

高校生の時、白澄が好きだった。
彼の隣が一番居心地が良かった。
でも、彼を好きでい続けることはできなかった。
彼と一緒に過ごしていくことはできなかった。
だって、それは、あの場所の記憶から永遠に逃げられないことを意味するから。

どうしても、私は彼越しにあの日々の景色と記憶を思い出してしまうのだ。
私があの場所から解放されるには、私が暖かい場所を目指すには、彼への気持ちに蓋をして、逃げる選択肢しかなかったのだ。

でも、今は違う。暖かい場所に連れてってくれる。
暖かい場所で一緒に生きていきたい人は別にいる。

「そうだったんだと思う・・・・。でも、今。ううん、これからの未来も一緒に生きていきたいと思える人は蓮くんだけだよ」

少し、寂しそうな儚げな顔をしていた彼の目が徐々に開き、驚いた表情に変わった。

「え?」
「私は、蓮くんのこと、一番大切な人だと思ってる。もう、一生自分を犠牲にしてまで誰かのことを大事に思うことなんて、ないと思ってた。」

唐突に一筋の涙が乾いた瞳から流れてきた。
そのことに動揺しつつも、その涙をすぐさま指で拭い、言葉を紡ぐ。

「だけど、蓮くんが笑ってたら私も嬉しいし、蓮くんが悲しい表情をしてたら、私も胸が締め付けられる。この感情が好きなのかは、まだわからない。でも、一番大切な人ってことは絶対だから・・・・」

誰かを大切に思って、その人のために生きるなんてできないと思っていたけれど、蓮くんとならそういう生き方もできる気がするのだ。
そのように思えるようになったのも、あの凍えるほど苦しいと思っていた日々の中に、無意識に自分で蓋をしてしまっていた暖かい感情があったことに気づけたからだ。

あの時から、私は一人じゃなかった。

自分のことを気にかけて、見てくれている人がいた。

ただ、蓮くんへの感情が恋愛的な「好き」という意味なのかはわからない。
だから、私は、「ごめん」と繰り返すことしかできなかった。

身勝手でごめん。欲しい言葉をあげられなくてごめん。

そんな私の隣に座り、彼は私をゆっくり引き寄せて、大きく包むように抱きしめた。

「僕も、菫のこと一番大切な人だと思ってる。この人となら、一緒に生きていけると思った。多分、初めてあの日、出会った時からずっと、そう思ってる」
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