白い菫が紫色に染まる時
「紫花 連(しか れん)じゃん!!え、同じ授業取ってたのか。知らなかった~」

ダメ元で聞いていたので知っていることに驚いた。
大学に入って数か月しか経っていないし、大学には何千人もの生徒がいるのだから、知らないことの方が多いだろうと思っていたのだ。

「え、知ってるの?」
「知ってるも何も、今一年生の中で話題なんだよ」
「何で?」
「イケメンだから」

そう言って、遠くにいる彼を見つめる彼女の瞳はアニメのエフェクトが入ったかのように           
キラキラしている。

「あ、なるほど・・・・」

確かに、はっきりとした顔立ちをしている。目がくっきりとした二重でシャープな輪郭をしている。
顔が整っているという理由で、有名になってしまうのも、それは大変だろうと思った。

その日は、この授業が最後の授業だったので、紅葉は部活へ行き、私は家に帰宅した。
大学から徒歩十分ほどにある古びた二階建てのコの字型のアパートだ。
部屋は全部で七つほどあり、正面から見て左側に三つ、右側に三つ。
私は左の建物の一階にある一番手前の部屋に住んでいる。
そして奥には家主の桃李さんが住んでいる。

おじいちゃんは元々、奥さんと二人で暮らしていたらしい。
しかし、奥さんはちょうど、五年ほど前に亡くなったそうだ。

私はここに越して、まだ一か月ちょっとしか経っていないが、桃李さんには良くしてもらっている。
相談に乗ってくれたり、話し相手になってくれたり・・・、あとは、近所付き合いで貰った野菜を分けてくれたりする。
だから、私はお礼として、土日には料理を多めに作って桃李さんに作った料理を差し入れしたりしている。
それで、お返しになっているか不安だけれど、桃李さんは喜んでくれるのだ。

ここのアパートには、毎年、学生が住むので、私のような学生の面倒を見るのは慣れているのだろう。
ただ、ここに越してきて、一か月ほど経つものの、他の部屋にはどんな学生が住んでいるのかは、まだ、私は把握しきれていない。

「はあ~、疲れた」

倒れるようにして、フローリングの上に寝転がる。
五月に入ってからは、必ず自炊すると決めていた。
毎日、冷凍食品ではさすがに健康に良くないし、できるだけ節約しなければならない。
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