白い菫が紫色に染まる時
今日は、プチっと鍋を使って簡単に一人鍋をしよう。
安めの野菜と大セールの時に人混みをかき分けてまで買った豚肉を入れて、あとはこの便利な調味料をプチッとした。

そして、鍋が温まるのを待っている時、めったに鳴らない携帯電話が振動した。
画面には白澄という名前が表示されており、私は緊張気味に電話に出た。

「もしもし、白澄・・・?」
「久しぶり・・・。そろそろ、新生活が落ち着く頃かなと思って電話してみた」

この電話は私が東京に来てから、初めての電話だった。白澄も忙しかったのだろう。

「うん。ちょうど、こっちの生活にも慣れてきたかな。でも、四月は忙しくて大変だったよ」

私はあの時の自堕落な食生活を思い返し、自分で自分の言葉に苦笑した。

「ちゃんと、ご飯食べてるか?」

ちょうど、今心の中で自虐していた話題を振られ、肩をビクッとさせて私は驚いた。
こんなに遠くにいるのに心の中を見透かされているみたいだ。

「それは・・・・、まあまあかな」    

食べてはいたけれど、先月までコンビニ飯や冷凍食品だったので、自信を持って返事をすることができない。
私は曖昧に返事をした。

「どうせ、菫は冷凍食品とかで済ませてたんだろ」

白澄は勘が鋭い・・・。

「それは、否定はできないけど、五月になってからはちゃんと自分で作ってるし・・・」

調味料をプチっとしているだけだけど。それは黙っておく。

「とりあえず、身体に気をつけろよ。菫は危なっかしいから」
「わかった」
「あと、大学で変な男に気をつけろよ」
「なにそれ?親みたいだね」

私はやたらと心配してくる白澄の言葉に笑いを抑えきれなかった。
こんなに気にかけられると心がくすぐったい。

「え、」

白澄の困惑した声が電話越しに聞こえる。

「心配性だって意味」
「そりゃあ、菫が一人、東京で過ごしてると思ったら心配にもなる」
「ふふ、ありがとう」

相変わらず、優しい。
誰にでも分け隔てなく優しい私の知っている白澄が変わっていなくて安心する。
お互いの近況を報告した。自分からあの場所を離れたのに、どこか懐かしい気持ちを感じていた。
最後に、「白澄も頑張ってね」と電話を切って、私は一人部屋の真ん中で冷めた鍋を食べた。
< 29 / 108 >

この作品をシェア

pagetop