白い菫が紫色に染まる時
縋ってくる紅葉を片目に、私も残りのラーメンを完食し、次の授業に向かった。
この授業は、内容はとても興味深いのだが、先生の声が眠りを誘うような渋い声で、多くの生徒が寝てしまう。

そして、そんな先生についたあだ名は「催眠術師」だった。

「そうだ。次、催眠術師の授業じゃん。私、絶対眠っちゃう・・・・」

先ほどのやる気はどこに行ったのか、紅葉は受ける前から、諦めの姿勢に入っていた。

「まあ、その時はちゃんと起こすから・・・」

そんなことを言い合っている間に教授が来て授業が始まった。
案の定、開始二十分くらいで、眠り始めた紅葉の脇腹をシャープペンシルでつつく。
つつくと毎度ハッとした顔をして、目を覚ますが少しするとまた眠ってしまう。

私は、この繰り返しで、何度起こしても意味がないと判断し、諦めて、寝かせておこうと思った。
先ほどは「起こす」と約束してしまったが、こればかりはしょうがない。
周りの生徒の中には机に伏せて寝ている人もいる。
また、起きているとしても、パソコンでYouTubeを見ている。

まともに授業を受けているのは私だけなのではないかと思っていた時、一人の男の人が目に入った。
一番前の席で、背筋を伸ばして一人真面目に教授の話に耳を傾けている。
珍しい・・・・・・。
催眠術師の授業で、一番前のど真ん中で真面目に授業を聞いている人は、あまりいないのだ。


同じだ・・・・・。

彼の姿が視界に入った瞬間、時が止まったような気持ちになった。
彼のことは何も知らない。
誰かもわからない。
同じ大学で同じ授業を受けているという共通点しかないのに、私はなぜかそう思った。
自分と同じだと。
ただ、漠然と感じた。

終わりのチャイムの音で現実に引き戻される。
はっとして、隣で眠っている紅葉を起こす。

「紅葉、起きて」

深い眠りの中にいたのだろう。彼女の肩を軽くゆすってから、目をはっきりと見開くまで時間がかかった。

「え、終わった?あ~、もうぐっすり寝てたよね。私」
「うん。完全に」

彼女はやらかした~と言いながら、自分の髪の毛をわしゃわしゃと乱した。
爆睡したことを後悔している彼女に私は先ほどから気になっていることを聞いた。

「ねえ、あの一番前に座っている人のこと知ってる?」

私は遠慮気味に、彼にばれないように、その人物のことを指さす。

「え?あ~、えっと・・。あ!!」

寝起きで視界がぼやけていたのか、紅葉が彼を認識するのに時間がかかった。
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