白い菫が紫色に染まる時
私は教科書を準備しなければと思い、月曜一限の時間割を確認すると、そこには英語という文字。
その文字を見て、一気に落胆する。英語という科目自体は嫌いじゃない。

けれども、英語の先生がどうも好きになれないのだ。
定年間近の年配の先生で、あまりやる気がないのか、ただ先生が教科書を読むのを聞くだけの時間が続く。
だから、私はいつも睡魔と格闘しなければならない。私がこっそり、ため息をつくと、寒さで白く淡い煙が浮かんだ。

授業が始まり、三十分くらい経っただろうか。
そろそろ瞼が落ちてきて、耐えられそうにない。
ちょっとくらい寝てもいいかな、いつもは真面目に受けているしと、心の中で言い訳をし、睡魔との格闘を諦めようとしたとき、後ろから急に背中をつつかれた。

突然背中に走った刺激のおかげで、完全に目が覚める。

この刺激を私に与えた犯人は白澄だった。
何の用だろうと思い、後ろを振り返ると、白澄が「寝てただろ」と口パクをしながら、小さなメモ用紙を渡してきた。
メモ用紙と言っても、ノートの切れ端のようなものだ。白澄との授業中のメモのやり取りは一年生の時から続いている。
お互い、授業に飽きた時は、しょうもないことを書いてやり取りし、暇つぶしをするのだ。

「寝てない」と口パクで言い返しながら、そのメモ用紙を受け取ると、「今日放課後に俺の家の前に集合」と記されていた。

「了解、でも何で?」と白澄が渡してきたメモ用紙に書き込み、彼に送り返す。
私たちの方には目もくれず、教科書にお話ししている先生に、気づかれることはないだろうが、念の為に少し前の方を気にしながら、メモ用紙を渡した。

「秘密」

そのように記された文字が戻ってきた。
秘密って・・・・。
何をそんなにもったいぶっているのだろう。教えてくれたっていいのに。

文字でやり取りをしている途中に、会話をするのは、なんだかルール違反だと思ったが、彼に真意を聞きたく、後ろを振り返った。
しかし、白澄は頬杖をつきながら、いつもの爽やか笑顔を浮かべているだけで教えてくれそうにはなかった。
彼の表情を見て、私は聞き出すのを諦め、彼の好きなようにさせようという結論に至る。
           
その後は、メモのやり取りおかげで、目が覚めた私はなんとかその授業を眠らずに乗り切った。
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