白い菫が紫色に染まる時
それを把握した私は話を合わせてそこら辺にいた何人かと適当に会話をした。
そんな時、なんとなく、視線を感じて、会話の中からそちらへ逸らすと私とは違う机に見覚えのある人がいた。
その人は相手の会話に合わせて、下手な愛想笑いをしている。

あの人・・・・・。

何だっけ、名前。

あ、あの日、私と同じだと思った人だ・・・・。

思い起こそうと、一人頭の中で考えていると近くでグラスが倒れる音が盛大に聞こえた。
そちらを慌てて振り返ると、目の前の人のグラスが倒れていた。
そしてその中に入っていた飲み物が私のスマホに少しかかっている。

「ごめん!」

目の前に座る男性が必死にスマホを拭きながら、謝った。
私は彼からスマホを受け取り、起動するか確認する。
内心は焦っていたが、ここで私が焦りすぎると、相手に必要以上に罪悪感を与えてしまうことになるので、必死に抑える。

「大丈夫ですよ。動きますし」

私はそう言いながら、今度からこういう時は机の上に置いておくのは止めようと思った。
そもそも、こういった席でスマホを不用心に机の上に置いていた私が悪い。

そんなトラブルがあったりして、結局、私は、あの彼の名前を思い出すことができなかった。
そして、事態が落ち着いたあと、彼の座っていた席を見ると、もう既にいなくなっていた。

お開きになり二次会に行く人と帰宅する人で別れた。
もちろん、私は帰宅することにし、紅葉と駅までの夜道を二人でゆっくりと歩いていた。

「どうだった?今日は」
「結構、ライン交換できたけど、今のところ、気が合うって人はいなかったかな。次に期待かな!」
「え、次?」

彼女は意気揚々としていたが、次は誘われても行かないと決めていた。
大勢でわいわいする雰囲気は私には合わなかったのと、思ったより食事代が高い。
こんなのに頻繁に参加していたら、かなり大きな出費になってしまう。

「菫は誰かとライン交換した?」

そういえば、断り切れずに、その場の流れで何人かと交換した気がする。
確認しようと、ポケットからスマホを出そうとしたその時、見事に手から滑り落ちた。

「あ、」

そう言った頃にはもう遅く、既にスマホはコンクリートの地面にスクリーンヒットしていた。
しかも、画面側を下にして。
慌てて拾って確認すると、案の定画面がバキバキになっている。

「大丈夫、動く?」
隣から紅葉の心配そうな声が聞こえる。
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