白い菫が紫色に染まる時
電源ボタンを押しても、動かない。
これは明日携帯ショップに行かなければならないと確信した。

「これは、修理確定だわ・・・」

私は真っ暗になって、自分の困った顔を写している画面を見ながら言った。



暑い・・・・・・。
その次の日、目を覚まして、最初に思ったのはそんなことだった。
そのような些細なことで、夏の訪れを感じる。
ただ、気持ちの良い暑さではなく、猛暑だ。
独り言で「あつっ」と言いながらベッドから出て、顔を洗い、料理を食べて、歯磨きをし、今年始めてエアコンをつけた。
しかし、スイッチを押しても、エアコンが起動しない。

「ん?」

何度スイッチを押しても、エアコンのリモコンを何度か叩いてみても、起動する様子がない。
アパート備え付けのエアコンなのでこれは桃李さんに相談するしかないと思い、サンダルを履いて外に出た。

すると、ちょうど女性をとっかえひっかえしている私の隣に住んでいる人、桃李さんいわく「良い人」も部屋から出てきた。
おはようございますと当たり障りのない挨拶をして桃李さんの部屋に向かい、ドアの前に立ち止まるとその男の人も同様に私の後ろに立ち止まった。

「あの、何ですか?」

私は自分より二十センチほど身長の高い相手に恐る恐る振り向く。

「いや、そちらこそ何ですか?」

挨拶以外にした初めての会話かもしれない。

「いや、私は桃李さんに話があって・・」
「俺も一緒」
「あ、じゃあ、先にどうぞ・・」

威圧感に負けた。
私はこれ以上彼と会話をすることが怖くなり、先を譲ることにした。
「どうも」と言って、ピンポーンと彼がボタンを押した後、しばらく気まずい沈黙が続いた。

この間を埋める話題が何もない。
隣に住んでいるのに、この人に関して女性関係が激しいという情報以外持ち合わせていないのだから。
そわそわしながら待っているところに、やっと桃李さんが部屋から出てきた。その時、心底助かったと思った。

「おお、楓くんと菫ちゃん。二人揃ってどうしたの?」

この人、楓っていうのか・・・。なんか、イメージとは違い、良い名前だと失礼ながら勝手に思った。

「エアコンが今日の朝から動かなくなって・・・。機械本体か配管がダメになってるのかも」

彼も私と同じ用事だったようだ。

「私も同じです。エアコンが動かなくて。そのことを桃李さんに相談しようと思って」

私も彼の後ろから顔を覗かせて、言った。
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