白い菫が紫色に染まる時
「それは、まあ、行ってからのお楽しみ?」
その後、彼女のテンションに流されずに、どこに行くのか聞いておくべきだったと後悔することになった。
その足で、彼女と向かった学生街の中で賑わう居酒屋には、同じ大学生と思しき人が既に沢山いた。
ここで集合しているようだ。
これはまさか・・・。

「テニスサークルの男子が定期的に経済学部の一年生で集まってご飯食べる会を開いてるの。それにずっと行きたくて。今日は初めて予定が合ったから、行くしかないと思って・・・・」

これは、情報交換会という名の出会いを見つける合コンだ。

「あ~、なるほど」

思わず、声が漏れる。
正直のところ、帰りたい。
だけど、ここに彼女を一人置いていくのも憚られし、そもそも行くと決めたのは私だった。
紅葉は普段から口癖のように彼氏がほしいと呟いている。
部活で忙しい彼女からしたら、出会いを探す千載一遇のチャンスなのかもしれない。
気持ちを切り替え、私も狭い人間関係を少し広める良い機会だと思うことにした。

店は少し洒落た居酒屋だった。
お洒落だが、大勢で集まって盛り上がることができるちょうど良い塩梅の雰囲気。
そして、今は飲み物を片手に幹事らしき人が何か話している。
健康的な日に焼けた肌色に、笑うと眩しい白い歯が見えるその人が、乾杯の合図と共に、ジョッキを上に上げた。
私も、その掛け声に合わせて、とりあえず近くにいる人と烏龍茶の入ったコップを合わせた。

一年生の集まりだけれども、中にはお酒を飲んでいる人もいる。
そういえば、これも大学に入って気づいたことの一つだ。
二十歳未満でも、お酒を飲む人は沢山いる。クラスの男子が酒臭いこともあったし、酔い潰れているのを、バイト帰りの道で見ることもある。

どうせ、数年待てば、飲めるようになるのに、何故そんなにも待てないのか謎だった。
きっと、お酒を飲むことで見栄を張ったり、自分が大人になったと自覚したいのかもしれない。
お酒はその道具に過ぎない。

ふと、隣にいる紅葉を見ると、楽しそうに近くにいる人達と話していた。
彼女が楽しそうなら、良かった。

「遠野さんは?」
「え?」

突然、目の前に座る男性に話しかけられて驚いた。

「前期、経済学の先生誰だった?」
「あ、えっと杉本先生。」
「あ~、俺も一緒。その人の課題きつかったよな」

どうやら、私の周りは前期の授業の愚痴について話しているようだった。
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