白い菫が紫色に染まる時
【2013年 冬 菫 東京】~共鳴と紫~
【2013年 冬 菫 東京】

あの日から定期的に紅葉はこのアパートに通っていた。
最初の口実は、「お菓子を作りすぎて、菫に持ってきたんですけど、それでも余っちゃて、楓さんも貰ってくれませんか。」とかだったような気がする。
それから、定期的に差し入れを持ってくるようになったし、楓さんもそれを快く受け取っているように見えた。

そんな紅葉を何度か見かけたのか、蓮くんにはある日「楓さんの家にご飯持ってきて、家に入りもせず帰る子がいるんだけど、菫の友達だよね?あの子、楓さんのこと好きなの?」と聞かれた。
ただ、遠くから見かけた蓮くんがわかるのだろうから、きっと楓さんもその好意には気づいているのだろう。
しかし、このままずっとご飯を差し入れするわけにもいかないだろうし、おそらく紅葉は告白する機会を伺っているのだと思う。

そんな日々を過ごしながら、早いことに年末を迎えた。
三人で月に一回、楽しんでいる恒例の鍋パーティーを大晦日はいつもより豪華にやろうということになっている。
桜さんも誘ったが、年末も仕事があるみたいで、帰ってくるのが遅くなるそうだ。
そのため、遅れて参加すると言っていた。
鍋の準備のため、私と蓮くんは夕方から二人でキッチンに立っていた。

「今日の鍋は豪華だね」

彼は食材の中にある蟹を見て言った。

「そうだね。準備しがいがあるね」

先日、大晦日に食べる鍋には肉をたくさん入れたいという楓さんの意見から、三人で買い出しに行った。
その時、肉を買うつもりだったのに、楓さんが蟹を買うと突然言い出したのだ。
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