白い菫が紫色に染まる時
【2014年 夏 菫 東京】~過去と愛に飢える~
【2014年 夏 菫 東京】

半年が過ぎ私は大学二年の夏を迎えていた。
誕生日を迎えて、二十歳になり、誕生日当日に楓さんにワインをもらったので、そこで初めてお酒を飲んだ。
けれど、楓さんからもらったお酒よりも桜さんが買ってくれたどこか有名なパティシエのケーキに結局夢中になってしまい、大人になったという感覚は全く湧かなかった。
その日以降、何度か楓さんに付き合わされてお酒を飲んではいるが・・・。

ちなみに、紅葉は楓さんの家に何度遊びに誘っても、乗り気になってくれないし、一度も家に上げてくれないと文句を言って、専攻科目が同じ同級生の男の子にシフトチェンジし、今はその男の子と付き合っている。
その彼とは順調のようだ。

けれど、そういえば、最近は楓さんの家に、女の人が来るのを見なくなっていた。

蓮くんは大学二年で選んだ専攻科目が同じだったようで、アパートだけでなく大学で会う回数も増えた。
そうすると、必然と彼が校内に一人でいる時がないことがわかるようになった。
彼は入学当時から名前が知れ渡っていただけあって、人気者みたいだ。
いつも、男女構わず誰かしら周りにいる。確かに、優しさの塊みたいな蓮くんが好かれないはずがない。
でも、大学の蓮くんはアパートで会う蓮くんとは雰囲気が違った。彼の奥までは踏み込みがたい壁を感じる。

そして、私は大学二年生になってから、飲食店に加えて家庭教師のバイトも始めたので少しお金に余裕が出てきた。
家庭教師のバイトは他のバイトに比べて時給が良い。

そんな夏の日。桃李さんとベンチでスイカを美味しく食べていた時、スーツ姿の楓さんが帰ってきた。

「お疲れ様~。インターン帰りですか?」
「いや、今日はOB訪問。めっちゃ疲れたわ。でも、色んな人脈作れるからそこは良いけどな」
「大変ですね~」

私が他人事のように言うと、来年はお前も経験するんだぞと忠告された。
楓さんは大変だと言っているけれど、彼の性格なら、大人にもすぐに気に入られそうだ。

「じいちゃん。俺もスイカ貰っていいですか?」
「いいよ、いいよ。まだ、中にあるから持ってこようかい?」
「ありがとうございます」

桃李さんは全然構わないよと言って家に戻っていった。
そして、汗をハンカチで拭きながら、楓さんは私の隣に腰を下ろした。

「暑いで・・」
「あのさ」

彼が突然、私の言葉を遮って話し始めた。

「だいぶ前にお前さ、新国立美術館に興味あるって言ってなかった?」

詳しく覚えていないが、確かにそんなようなことを言った気がする。
それもかなり前の話だ。楓さんに言われる今の今まで忘れていた。

「あ~、言いましたね?」
「今度、そこ行こうぜ。とりあえず、資格の勉強はひと段落したし、今やってるインターンも来週で終わるから。久しぶりに出かけたい気分なんだよ」            
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