白い菫が紫色に染まる時
新国立美術館・・・・。
行けるのなら行ってみたい。
誰かに誘われないと、自分一人では行きそうにないし。

「いいですよ。じゃあ、蓮くんにも予定聞いてみますね」
「いや、蓮は建築とか興味ないだろうしいいよ。興味ない人を連れてくのは申し訳ないし・・・・」

私も建築物には興味がないし、詳しくないのだけれどいいのだろうか。
どちらかというと、中の美術館に興味があるだけなのだが。

「スイカ持ってきたよ」

桃李さんがスイカを持って戻ってきた。

「ありがとう、じいちゃん。やっぱり、夏と言えばスイカだよな」

彼は種など気にする素振りを見せずに、出されたスイカを思いっきり口に入れた。

そして、スイカを食べたその日から二週間ほど経って新国立美術館に行く日になった。
建築好きな楓さんと行くからにはと、少しその美術館の建築の特徴など調べていると、かなり興味深くて、いつの間にかこの日が楽しみになっていた。
午前中は、楓さんが大学に用事があるそうなので、駅で集合になっている。
私は五分前に集合場所に着いた。そして、楓さんは時刻ぴったりにやって来た。

「おお、待ったか?」
「いや、大丈夫です。それにしても、なんか変な感じしますね」

思い返してみると、私が楓さんと会うと言ったら、お互いの部屋か桃李さんの部屋でしかない。
キャンパスが違うから、偶然大学で会うこともないし・・・。
こうして、改まって待ち合わせして会うことも滅多にないのだ。

「まあ、確かに変な感じはするな」

電車に乗っている時間は、微妙な関係の人が一緒だと話が続かず、気まずい思いをすることもあるのだが、楓さんとはそうはならなかった。
そして、あっという間に新国立美術館に到着し、楓さんはまじまじと外観を見つめていた恍惚とした眼差しで。
食べ物とか恋愛に目を輝かせている人を近くで見てきたけれど、それとは比にならないほどの輝きだった。
この人は本当に建築物が好きなのだろうと改めて実感した。

それと同時に、こんなに何かを好きになれるのが羨ましいとも思った。
確かに、建築物に詳しくない私でも、あんなに家でスマホを使って見ていた建物が目の前にあると興奮する。

「すごいですね・・・」
「ああ、これは黒川紀明という建築家が設計したんだけど、やっぱりこのガラスで作られた波のようなウエーブが繊細だよな。あと・・・・・、」
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