白い菫が紫色に染まる時
あの日のことを思い出して、彼はわざわざ二つお汁粉を買ってきてくれたようだ。

「うん、飲む。ちょっと待って。今から上着着てくるから」

私は彼を一人で待たせないように、先ほど脱ぎ捨てた上着を再び羽織り、家から出た。

「ごめん。待たせて」
「いや、全然。僕が急に誘ったから」

そう言って、彼は私に向かってお汁粉の缶を優しく投げて渡してきた。
受け取ったお汁粉はとても温かった。
そして、散歩しながら飲もうかと彼が言ったのでアパートを出て二人で道沿いを歩きだした。

私は、急いで家を出てきたのでマフラーを巻き忘れていたようで、それに蓮くんが気づいて彼の紫のマフラーを巻いてくれた。そして、二年前と全く同じだと思い、どこか可笑しく、くすぐったい気持ちになった。

少しの静寂の後、彼が就活の話をし始めた。

「菫は就活、どうする予定?」
「出版業界に絞って、就活する予定。本とか好きだし、桜さん見てて、楽しそうだから。大学で学んだことを活かせるかはわからないけど・・・。蓮くんは?」
「僕は、商社関係かな。インターンに行かせてもらったところを第一志望で就活していこうかなって」
「そっか・・・。お互い、頑張ろうね」

就活の話がひと段落して、また静寂が訪れた。
いつもは、こんなに不自然な静寂になることはないのに。
今日はどこか変だ。
私はこの場の雰囲気にいたたまれない気持ちになり、その気持ちを誤魔化すために、お汁粉を一口飲んだ。

「あのさ、」
「ん?」

これから話し始めることが、本来彼が今日私を外に誘い出した理由のような気がした。
私はどんな話が来るのだろうと少し身構える。

「誰も好きになれないって偶然聞いたんだよね。あの日」

あの日・・・・・、とは私が楓さんに返事をした日だろうか。
随分前のことだから曖昧だけれど、玄関先で楓さんに告白の返事をしたような気がする。
それなら、あの会話を偶然聞かれてしまっても致し方ない。
もう少し、配慮するべきだったと思ったけれど、あの時は頭の中がこんがらがっていて、それどころではなかった。

「あ~、ごめん。それ聞いてたなら、気を遣わせちゃってたよね」

あの告白の後の一か月間、私の態度は絶対に不自然になっていたし、事情を偶然聞いてしまった蓮くんは居心地が悪かったに違いない。

「いや、それは別にいいんだけど・・・。あの誰も好きになれないって言葉。どういうこと?」
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