白い菫が紫色に染まる時
「どういうことって、、、、。そんな深い意味はないよ、別に」

まさか、その部分を具体的に聞いてくると思ってもいなかった。
蓮くんが、人が触れてほしくないところに踏み込んでくるのは珍しい。
私は、不自然に彼から目をそらしてしまったが、変わらずに彼は私の横顔を見つめてくる。
そんなに真剣な眼差しで見つめられると、言いたくなかったのに言わざる得ない気持ちにさせられてしまう。
私は観念してため息をつき、話始めた。

「そのままの意味だよ。私、誰かに恋愛感情を持てないみたいで。人間としては好きでも、その人に恋しているか?と聞かれると、自信を持てないみたいな・・・。多分、好きという感情に支配されるが嫌なの。誰かを好きになって、付き合って結婚したら、だいたいの女性が好きという大きい感情を理由に、自分の時間を割いて無条件に相手に捧げることになる。それで、結婚して何年か経って恋愛感情がなくなった後、あの時間がなければ。自分のために使えばよかったって後悔しそうな気がして・・・・」

私は重苦しい雰囲気にならないように、明るいトーンで話したつもりだったが、私の笑い声は寂しく冷たい空気の中で響いただけだった。

「こんなこと考えちゃうなんて、寂しい人間だよね。自分でも自覚してる。でも、寂しく一人で生きていくのは嫌だ。だから、恋愛感情を持ってなくても共に生きてくれる人がいたらいいな~とそんな都合の良いことを願ってるんだけど。まあ、そういう人に出会えなくても、桜さんみたいに一人でバリバリ稼いで生きていくという手もあるしね。それも、幸せだよね」

あんなに話すのをためらっていたのに、話始めるとすらすらと自分の言葉が出てきた。
以前より、自分で自分のことを理解できるようになったのかもしれない。
そして、私が話し終えて、再び少しの静寂が訪れる。


「僕じゃダメかな」


静寂をかき消したのは蓮くんの緊張した声だった。

「え?」
「僕がこれから一緒に生きていく相手じゃダメかな。結婚を考えて菫と付き合いたい。当たり前だけど、僕だったら自分のことは自分でやるし、菫の大切な時間を奪ったりしないから」

一瞬、冗談かと思ったが、彼はこんな場面で冗談を言うような人ではないし、何より表情も言葉からも真面目に言っていることが伝わってくる。

「いや、え、私がさっき言ってたこと聞いてた?」
「聞いてた。ちゃんと。その話を聞いて、今話してる」
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