白い菫が紫色に染まる時
「お前ら、本当変わってなくて、安心したわ。こっち帰ってきて、よそよそしくなってたら、どうしようかと思ったわ」
「そんな半年くらいじゃ何も変わりませんよ」

蓮くんがそう返した後、ここにいる全員が過去を思い返して懐かしい気持ちになったのだろう。
話題は一・二年前のことになった。初めて、出会った時のこと。どんな印象を持っていたか。
きっと、こんな話になったのは楓さんが卒業後には今住んでいるアパートを出てしまうからだろう。
アパートで過ごした思い出を振り返り一つの区切りを付けているかのようだ。

「あ、雪」

レストランからの帰り道、桜さんが声をあげた。
その声を合図に皆が空を見上げる。
小さな雪がぽつぽつと降り始めていた。
しかし、この調子だと降り積もる雪ではなさそうだ。
コンクリートに落ちた雪はすぐさま溶けてなくなっていた。

「二年ぶりですね。東京で雪降るの」

蓮くんに言われて二年前を思い出す。
確か、あの時は楓さんに無理やり外に連れ出されて雪だるまを作った。懐かしい。
もう、二年前か・・・・・。
といことは、私がこちらに来てもう三度目の冬を迎えたことを意味する。

「速いですね。二年って」
「そうね~。年をとるにつれて時間の感覚が速く感じるようになるのよね」
「俺も、つい最近入学したと思ったら、もう卒業だからな。大人になるのってあっという間だな」

それぞれが、それぞれの思いを抱えながら雪を見て、帰り道を歩いた。

「すごく、美味しかったな・・・・」

家に帰り、私は一息ついた。
今日のような店は桜さんが教えてくれないと知ることもなかっただろうし、一人では行けない。
こちらに一人で出てきた時は、良い雰囲気の店でご飯を食べているなんてこと想像できただろうか。

そんなことを考えながら、私はベッドに仰向けになり、家の白い天井をじっと見つめていた。
化粧も落としていないし、そのまま眠ったら大変なことになると思いながらも、睡魔に負けそうになっていたその時、インターホンの音で、現実に意識が戻ってきた。

扉を開けるとそこには、蓮くんがいた。

「どうしたの?」

そう聞くと、彼は後ろに隠していた何かを私の目の前に持ってきて見せた。

「お汁粉。今日は雪が降っているから飲まないかなと思って」

思いがけない要件に私は笑みがこぼれた。

「え、覚えてたの?二年前のこと」
「うん。一緒に飲まない?」
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