白い菫が紫色に染まる時
「ごめん、ちょっとわからない・・・」

私の話を聞いてなお、そのような結論に至るのか全く理解できずに混乱していた。
 
「前にさ、菫には話したと思うんだけど、僕は、基本、人に興味が持てない人間だったんだ。だから、必要以上に自分のテリトリーに踏み込まれるのは苦手だった。僕も孤独とか一人で生きていくのは好きじゃない。むしろ寂しいと思う」

「だけど、どんなに相手が自分に興味を持ってくれても、返せないから。一方的に受けるだけになる。それってすごく残酷なことだと思って。だから、僕の殻を破ろうとしてくる人が苦手だった」

雪が混じった風が私と蓮君の間を吹き通る。

「でも、菫が僕のテリトリーに入ってくるのは嫌じゃなかった。多分、それは僕も菫に興味があったから。菫のことを知りたいと思ったし、仲良くなりたいと思ったからなんだと思う。初めて、自分から何かしたいと思った。親切にされたら、その分返したいと思った」

「僕は、これから先そんな人に出会えないって今、確信した。きっと、僕は君のことが好きだよ」


小さな雪が蓮君の髪に落ちて、消えた。
                
「それで、僕は菫が恋愛感情を持ってないとしても、共に生きたいと思っている。つまり僕は菫にとって都合の良い人間でもある」

そう言って彼は笑った。
でも、私は全然笑えなかった。正直、蓮くんとは気が合うし、二人きりでいて嫌な思いになったことがないし、共に暮らすとしても、私に全てを任せたりしない人だ。
だけど・・・・・、それはダメだ。

「そんなの・・・・・、おかしいよ。そんなこと言ったら、私が何も返せない残酷な人間になっちゃうでしょ」

「そんなことないよ。これは僕の自分勝手でもあるから。僕の自分勝手に菫を巻き込んでいるだけだ。だって、僕は罪悪感を抱いている菫に強引に結婚を迫っているわけだし、それに僕にとって菫との結婚は自由になることに繋がる」

「どうせ、僕は菫にこの提案を断られたら、地元で全く心を許してない女性とお見合いすることになるんだから」

紫のマフラーに先ほどから降っている雪が落ちて溶ける。

「菫が自分勝手に生きる道と僕が自分勝手に生きるための道は同じなんじゃないかな」

本当に、同じなのだろうか・・・。

こんなの私だけが得をする道ではないのだろうか。
それでも、蓮くんが言ってくれた言葉は私の心を揺らした。
もう、孤独になる不安から、寒さに凍えたくないという思いから逃れたかった。
私は太陽みたいな彼と共に生きてみたいと、この一瞬で、強く願ってしまったのだ。

「よろしくお願いします・・・・・」

そう言った時、肩の荷が降りたような気がした。
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